2015年度:奄美の明日を考える奄美国際ノネコ・シンポジウム

2015年12月6日(日)に奄美大島・奄美市において「奄美の明日を考える奄美国際ノネコ・シンポジウム」を開催しました。参加者は約150名。当日は、開演前から龍郷町立大勝小学校5年生が、自分たちで作成した「絵本」を元気な声で来場者に手渡してくれました。

 シンポジウムは、本学の前田学長からの主催者あいさつにはじまり、環境省那覇自然環境事務所長、鹿児島県奄美世界自然遺産総括監、奄美群島広域事務組合管理者など、本シンポジウムの共催者、協力者からのメッセージがつづきました。

 最初に登壇したのは、大和村にある環境省奄美野生生物保護センターの鈴木上席自然保護官。「世界自然遺産登録に向けた現状と外来種対策」と題して、1万頭を超えていたマングースが100頭以下に減った一方で、山中で野生化したネコ(ノネコ)が希少野生動物にとって脅威となっていることが紹介され、対策の現状と課題が報告されました。

 続いてニュージーランド保全管理研究所のグレン博士から島嶼地域での外来種対策の紹介がありました。最初のネコ駆除が90年前に行われたこと、ネコ駆除が行われた最大の島の面積は約300㎢であること、人口が最大の島でも1000人程度であり、面積約700㎢で人口が6万人を超える奄美大島の挑戦は世界的に前例がない取組であることがわかりました。

 その後、本学から二つの調査研究を報告しました。国際島嶼教育研究センター奄美分室の鈴木真理子プロジェクト研究員は、国立環境研究所・北海道大学と共同で行ったネコに関する住民意識調査の結果を報告し、多くの人が特にノネコについては何らかの管理をすべきであり、飼い猫の山への放棄が問題の根源であると認識していることがわかりました。

 鹿児島環境学研究会の小栗有子准教授は、絵本に登場するネコの絵を使いながら、ノネコの問題はどの立場に立つか(ネコ好きか、ネコ嫌いか)、どういう視点から考えるか(人間側、ネコ側、野生動物側)によって問題の見え方が変わるため、考える物差しを合わせることが重要と指摘し、今後多様な関係者が協力し合える作業を通じて合意形成を図ることが必要と強調しました。

 後半は、奄美大島に住む5人のパネリストが登壇して「奄美の明日を語る」パネルディスカッションが行われました。コーディネーター役は鹿児島環境学研究会の星野一昭特任教授。

 9年前にカフェを開店した久野優子さんは、野良猫の多さやネコにとっての悲惨な状況を目の当たりにして、野良猫の避妊去勢やネコの適正飼育の普及啓発などの取組を開始し、昨年夏に活動団体「奄美猫部」を設立した経緯に触れながら、官民が同じ方向を向いて協働作業でネコの様々な問題に取り組む必要性を強調しました。

 科学的な根拠に基づいて奄美の希少な野生動物の保護を訴えてきた奄美哺乳類研究会の阿部優子さんは、山裾の集落では飼い猫や野良猫がノネコと同じように希少動物を捕食している可能性を指摘し、ノネコ問題解決には時間的余裕がないことを踏まえた早急な対策が必要であると行政関係者に強く訴えました。

 しーまブログの運営を通じて島の情報発信に努めている深田小次郎さんは、ノネコ問題の重要性を認識して、この問題の発信に取り組みたいと思い、関心のない人にいかに興味を持ってもらうか、双方のやり取りによって人を巻き込む大切さといった観点から、集落のネコの写真を撮って名前を付けてみんなで管理するための「ネコアプリ」を提案しました。

 大島高校1年生の久保駿太郎君は、奄美大島の野生動植物を調査している生物クラブの活動でノネコ問題を調べ、現状を変えなくてはいけないと強く感じたことを報告。ネコを悪者扱いするのではなく、ペットとして共生できるようにみんなで考える環境づくりをしていきたいと述べました。また、世界自然遺産登録に関しては、登録の前に観光客増加など予想される事態への対策をとっておくべきと大人たちに苦言を呈しました。

 20年以上前に奄美大島に移住した愛猫家でもあるピアニスト/作曲家の村松健さんは、移住当時にネコが似合う島との印象を受けたことに触れ、ノネコ問題はネコを愛している人がネコとどう付き合うかが問われている問題であるとして、ネコ好きの愛情を良い方向に向けることが重要であると述べました。また、奄美の未来を考える際に「島特有(固有)の」で終わらせずに、何がどのように特有(固有)で貴重なのかについて理解を深めることの重要性を指摘しました。

 コーディネーターは、パネリストの議論を受けて、地域がノネコ問題、野良猫問題そして飼い猫について考える仕組みを作ることの重要性を強調し、例えば、地域ぐるみで集落のネコを調べ、見守る取組を行うこと、今後開発されることを期待して「ネコアプリ」を活用すること、ネコ好きの方の協力が得られる方策をみんなで考えていく必要性を指摘しました。鹿児島環境学研究会としてもこうした取組を一緒に考えていきたいと述べ、パネルディスカッションを締めくくりました。

 最後に、グレン博士、環境省、鹿児島県から一言ずつ発言があり、予定の3時間を30分ほど超過してシンポジウムが終了しました。

※詳しくは、電子ブック 2015年度 【奄美の明日を考える 奄美国際ノネコ・シンポジウム】記録集をご覧ください。