- 48 --4-講演要旨環境省奄美自然保護官事務所上席自然保護官 鈴木祥之 奄美・琉球諸島はアマミノクロウサギやヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコなど数多くの固有種の生息地になっているほか、島ごとに独自の進化を遂げたことによって種の多様性に富む生態系が見られ、世界的に見ても生物多様性保全上重要な地域です。このような理由により、奄美・琉球は世界自然遺産登録を目指しているところです。 奄美大島では、環境省が中心となってマングース防除事業を進めており、近年アマミイシカワガエルやアマミトゲネズミといった在来種の生息状況の回復が確認されています。一方で、ノネコによる野生動物の捕食、特に奄美に固有で希少な動物種への被害が奄美大島と徳之島で注目されています。ネコはマングースと同様に鋭い爪と牙を持ち、四本足で素早く行動できることに加えて、木に登ることもできます。このような動物はもともと奄美群島にはいませんでした。また、エサや環境の条件が良ければ、年に2~3回出産し、一度に4~8匹の子どもを産むことができます。哺乳類、鳥類、両生・爬虫類、昆虫など多様な動物を捕食し、時には遊びとしてハンティングを行うことがあり,少数のネコにより多数個体の動物が捕殺されることもあります。実際にノネコの糞を分析した調査等の結果から、アマミノクロウサギやケナガネズミといった希少種も捕食されていることが明らかとなっています。このように希少種や固有種、生態系への被害が大きいことから、国際自然保護連合(IUCN)により「世界の侵略的外来種ワースト100」に選ばれています。 ネコはその生活様式によって、山中で動物を捕まえて自活しているノネコ、人に飼われている飼い猫、野外で生活しながらエサは人間に依存している野良猫の3種類に区別されています。 ノネコの発生は飼い猫が山中に捨てられたり、野良猫が山中に入って野生化したことに起因します。よって、奄美の希少種・固有種を守るためには、山中からノネコを排除するとともに、発生源対策として飼い猫を適正に飼育し野良猫をこれ以上増やさないことが必要です。これらの取り組みは奄美大島と徳之島で、それぞれ環境省、鹿児島県、市町村、獣医師、NPOなどの協働により、進捗に差はあるものの進められています。またマングースと違って、ノネコは集落から「発生・供給」されますので飼い主や住民もノネコ問題を適切に理解し、適正飼養に向けた意識の向上が求められます。 外来種は人が飼っている動物に由来するものも少なくありません。飼育されている動物は野外で自由に暮らすことが良いことと考えたり、生物多様性が豊かになるという誤解や、飼育が難しくなったペットは野外に逃がした方が幸せであるといった動物愛護の観点からも不適切な認識があること等から生態系等への影響について考慮しないまま、安易に外来種を野外へ放つ、遺棄される事例があります。住民一人一人が外来種問題を認識して、動物たちとの関わり方を見つめることが大切です。【経歴】 平成12年に東京農業大学農学部林学科を卒業。平成13年に環境省に入省し、これまで那覇、石垣、立山、洞爺湖、東京(本省)、松江で勤務し、主に国立公園管理と動物愛護の業務に携わる。平成26年4月より現職。奄美群島の国立公園指定及び世界自然遺産登録業務を担当。 (2)講演要旨-5-講演要旨島嶼地域における侵略的生物種の管理―ニュージーランドの取組ニュージーランド保全管理研究所研究員 アル・グレン 島嶼地域は世界の地表の3%を占めるにすぎないが、生物種の絶滅の多くは島嶼地域で起こっている。その主な理由は侵略的生物種、特に捕食動物である。ニュージーランドでは、1800年以降20種の在来鳥類が絶滅し、さらに77種が絶滅の危機に瀕している。在来種の消失を食い止めるため、ニュージーランドは島嶼地域から侵略的生物種を除去する手法の開発に先導的に取組んできた。 1912年には5haのンガヒティ島からウサギを排除した。これは、ニュージーランドにおける侵略的哺乳類除去の最初の成功事例である。その後、技術や手法の進歩に伴い、大面積の島でも様々な侵略的生物種の駆除が行われるようになった。例えば、1925年にはニュージーランドで最初のネコの駆除が1.5㎢のスティフェンス島で行われた。現在では、世界中の101の島でネコが駆除されており、その最大の島は293㎢のマリオン島(南アフリカ)である。 ネコの駆除は島嶼生態系に劇的な効果をもたらす。在来の鳥類、哺乳類、爬虫類の個体数は多くの場合回復し、局所的に絶滅した生物種についても自然に又は場所を変えて再生することが多い。健康面での利点もある。例えば、トキソプラズマ症は人間や家畜に有害であるが、限定宿主のネコの存在がある場合に限られる。 大面積の島での駆除の実施以外にも、進展がみられる。最近まで駆除の試みが行われるのはほとんどの場合、無人島か居住者がごくわずかな島であった。人の存在が多くの理由から駆除の努力を複雑にするからである。人や家畜に対する危険性、私有財産の利用制限、様々な理由による駆除への反対があるかもしれないからである。さらに、市街地や居住地は侵略的生物種に豊富な餌と安心できる休息の場を提供することになる。しかし、地域社会が駆除の取組にかかわりを持ち、支援するようになれば、大きな利点となる。地域社会は地域の知恵を提供し、有害動物の実態調査、監視や駆除に参加し、駆除の取組に対して基盤施設(インフラ)の提供や支援をすることができる。 2004年にアセンシオン島からネコが駆除された。この島の面積は100㎢、人口は約1000人である。奄美大島は721㎢で人口6万人以上。これまでにネコが駆除されてきたどの島よりも面積が大きく、人口も多い。しかし、島嶼における侵略的生物種を管理する我々の能力は急速に拡大している。計画策定、後方支援、制御の手法と技術、そして駆除結果の評価手法に関して大きな進展が見られた。かつては野心的だったことが今では普通のことになっている。かつては現実的ではないとされたことが実現可能になっている。輝かしい事例は、奄美大島におけるマングース根絶に向けた急速な進展である。封じ込めや局所的制御などその他の管理手法も、奄美の希少動物の保全に役立つものであり、ネコの駆除が完遂されるまでの暫定的な措置として有効と思われる。【経歴】 生態学と野生動物管理の研究に幅広い関心を有する野生動物生態学者。シドニー大学で肉食性哺乳類の生態と管理を研究し、2005年に学術博士号を取得。調査研究の多くは在来の動植物と外来の動植物の間の生態学的相互作用に関するもの。現在は外来種により強度に侵略された生態系の回復に関する調査研究に焦点を当てている。
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