平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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59 3.スダジイの利用方法 奄美・琉球の世界遺産の価値は、亜熱帯照葉樹林に生息する国際的な希少生物にあるとされている。亜熱帯照葉樹林の主要な構成樹種であるスダジイの利用方法を少し詳しく見てみたい。 スダジイ ブナ科 Fagaceae Castanopsis sieboldii (Makino) Hatus. ex T.Yamaz. et Mashiba subsp.lutchuensis (Koidz).H. Ohba 方言名:シィギ、シィーギ、シマシギなど 椎は、スダジイ(ブナ科)で、イタジイともいう、方言名、シィギ、シィーギ、シマシギなど。建築材としては、柱、ネダ、ケタ、ヌキ、タルキ、板などこの木一種だけでも家が出来る、といって良い位である。 『南島雑話』に、<椎之実之事>があり、詳しい記述がある。島中の男女が精をだし、椎の実拾い、加工から食料にするまでの事、味噌、焼酎、蒸菓子などに使用した事が細かく書いてある。椎の実は、大昔から奄美群島の人々は活用していた事が分かる。恵原義盛著『奄美生活誌』にも、<椎の実拾いーシーヒレ>の項があり、明治から大正時代の椎の実拾いについて詳しく記述してある。私自身も戦前から戦後まで、椎の実拾いをした経験がある。炒った実を食べたり、加工してご飯、お菓子、味噌などに使ったりした。先祖代々、食文化が引き継がれて来たのだと思いを深くした。 『南島雑話』の<椎之実之事>を紹介したい。 ○ 椎之実之事 大島は大山にして椎木多き故、椎の実多くなる年は莫大のものなり。島中男女精を入て、是の椎の実を拾ひ、朝夕の飯料とす、米の飯に次で上食なりと云。蒸し或煮て、囲炉裏の上に上げ、又は日に干して乾かし、臼にて皮を搗砕き、実を沙分けて、飯、或は粥、或は味噌、或は焼酎、或は蒸菓子にす。椎の実の飯は、前晩より水に漬置て焚時は能く煮ゆると云へり。米と交へて焚くには、椎の実より先に煮て一沸き沸き上る時、米を打込焚かではよからずとなり、味噌又は焼酎を煎る時、麹もよく立つなり。焼酎を煎ずには椎の実ばかりにては、焼酎ならず。甘藷をまじえて煎ずれば椎の実一升に一沸出ると云。此焼酎柔かにして最上なり。外に伝授の煎じ樣ありと云。是は焼酎の垂り別て多く、殊に泡盛んなり。蒸菓子は餅米と半々交へて製す。至て宜し。又形菓子に製造すれば、粉至極細抹にして、葛にて製したる菓子に似て最上なり。是は米にて製したる形菓子よりも色白く却て増れるならんか。右の如く蒸し或は煮て干し付置、皮も去らずして貯ふれば、幾年を経るとも虫付く事なし。故に椎の実を多く拾ひ貯れば、凶年の用意となると云へり。然りと雖も湯手過て皮割るゝ時は多年を経ずして虫付くと云。九月末方より椎の実を拾へば、多く実の生るゝ年は翌年迄も拾ふ事なれども、九月より塩焚をし、砂糖樽の榑木も取り、田地を打返し、十一月より砂糖も煎ずれば島民寸暇を得ざるの時して、霜月に至れば拾ふ人なしと云へり。椎の実を拾ふ事至て難儀なるものなり。大島の山巌石の坂道のみにして、夫を暁天に松明を輝かし、卯の刻までに壱里余も行て、其日終日、幽谷を経、絶壁を越え、数川を渉り、椎の実のある所を爰彼しこと尋廻りて終日拾へば、上手は弐斗余も拾ふ。手籠を背負て夫を入れば、漸々重く、中々難儀なるものなり。又三、四里奥山の椎を拾ふには、前日より行きて、其夜山に泊り、翌日終日拾ふて帰る。島民是を天賜の穀物なりと、苦労しても拾ふなり。椎の実を拾ふ事は、男子よりも女子よく拾ふと。男子五升拾ふ時は女子八、九升も拾ひ、男子八升拾ふ時は、女子は壱斗二、三升は拾ふとなり。 1-P84~85

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