58 江戸末期の奄美大島の植物利用 田畑満大(奄美市文化財保護審議会委員) 岡野隆宏(鹿児島大学教育センター) 1.はじめに 1989年8月、国立科学博物館の中池敏之氏との対話の中で、「名瀬市赤崎から硯石がとれていたようだが、今もあるのか」とのこと。そのようなことは知らないので話の出所を確かめたところ、『南島雑話』で知ったとのことであった。 名越佐源太の著した『南島雑話』といえば、江戸末期の奄美大島のくらしを知るバイブル的な存在だとは聞いていたが、手にとって読んだことはなかった。帰ってから平凡社から出版されている『南島雑話1・2』(国分直一、恵良宏、校注、平凡社)を買い求めて読んでみた。硯石の事についての記述はどこだろうかとページをめくっているうち、意外や動植物の絵図で解説が多く、当時の庶民生活をうかがい知ることが出来そうで最後まで読み進めることができた。 しかし、いくつかの疑問点を奄美植物相と照らし合わせながら考えてみたいということで、1989年12月と1990年2月に奄美郷土研究会で発表し、1995年から1998年にかけて『きよらじま』(奄美の自然を考える会)に「南島雑話の中の植物」と題して3回にわたって連載を行った。その後、瀬尾明弘氏にリスト提供し、「『南島雑話』にみる植物の利用」(田畑・瀬尾 2011)がまとめられた。 奄美の環境文化を考えるときに植物利用は大きなテーマである。今回は『きよらじま』の連載と、その後の折々に書いたものを整理して電子化することが出来た。紙幅の都合で本報告書への掲載はかなわないが、その概略を述べたい。 2.植物の出現数と利用 『南島雑話』中には647カ所で植物に関する記載が見られた。記録の中の植物は、古い時代に導入した植物や、自生種で生活に利用された植物が多い。もっとも多く登場するのがイネ(モチイネを含む)で続いてサツマイモである。続いて半栽培の状態にあるタケ類やソテツが多く、樹木ではスダジイが最も多く登場する。登場する植物ごとに利用法をまとめたものを文末に付表として示す。 イネは主食のほかに味噌や焼酎の材料として、また祭祀の供え物として用いられていた。モチイネは菓子や焼酎の材料であった。 サツマイモは主食のほか、味噌、菓子、焼酎の材料として用いられた。栽培方法が繰り返し記述されており、いかに食糧としていかに重要視されていたかが伺える。 タケの類は煮物、汁の具など食の利用のほか、笠や籠の材料、生け垣、砂糖樽の帯竹などさまざま利用方法が記載されている。 ソテツについてはさまざまな食の利用法が記載されている。蘇鉄は、救荒植物の代表的存在であり、奄美の人々の命を救ったのである。 スダジイは、シイの実を主食、飯、粥、味噌、焼酎、蒸菓子、菓子(椎カン)、菓子(砂仁餅)、焼酎と多様に用いている。また、屋敷建築や鍛冶炭としての利用も記述されている
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