平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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39 戦前の喜界島の食生活 -拵嘉一郎「喜界島農家食事日誌」の分析- 岡野隆宏(鹿児島大学教育センター) 1.はじめに ある地域における自然とのつきあい方や土地利用を考える上で、欠かすことが出来ない分析の視点として食事がある。食の素材をみることでその土地の主要な農作物や採集物、調理法をみることで文化的な背景をうかがい知ることができる。特に、冷蔵などの保存技術や自動車などの運送機関など流通機能が未発達な時代における日常の食事を分析することは、その当時の農耕活動や採取活動を理解する上で大変重要である。 祭礼や冠婚葬祭などの特別な日(ハレ)に供される食事については特別な食事であるため記録に残されることが多いが、日常(ケ)の食事については、その当時においてはごく当たり前のことであるため、記録に残されにくい。幸い、奄美群島には拵嘉一郎の『喜界島農家食事日誌』(1938年、アチックミューゼアム)がある。これは、喜界島において昭和11年(1936年)2月12日から昭和12年(1937年)2月26日までの間の食事をほぼもれなく記録したものである(昭和11年10月8日より12月19日は中断)。 『喜界島農家食事日誌』については、基俊太郎が「自然と生産と人」(『島を見直す』収録、1993年、南海日日新聞社)で、戦前の食生活の一端を垣間見ることができるものとして分析している。基は、主食種類別頻度、汁物種類別頻度、副食物種類別頻度を示している。しかしながら、ハレとケの食事の比較や食材の季節性については分析していない。 本研究では、本資料を基に、ハレとケの食事を比較するともに、農作物の栽培暦や動物性タンパク質の摂取頻度を分析し、昭和初期における奄美群島の食生活の概要を把握した。 2.『喜界島農家食事日誌』について 序によれば、拵氏は農業の手伝いをしながら村のために働く島の中堅青年である。拵家は喜界島東岸にある阿伝集落にあり、経済的には中位の家庭とされている。 家族構成は次の6人家族である(昭和13年現在) 祖父(72歳) 祖母(74歳) 母(44歳) 本人・嘉一郎(25歳) 妹(23歳) 妹(22歳) 祖父は集落の長老の一人であり、かつ唯一のサワラ漁の船頭で、年中の生活の様式は質素で古風で堅実な側に属すると、序に記されている。

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