平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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24 3.薩摩藩をも悩ませたケンムンへの畏れ ケンムンは江戸時代の薩摩藩の文書にもたびたび登場する。 「薩摩藩勧農・開墾政策におけるノロ・ユタと怪異ケンムンについて」(弓削政己 2013)によれば、ケンムンは薩摩藩の初期の時代から、藩の公的な文書に記述が登場し、藩の役人は、島民が神山・ケンムンを恐れて、耕作の障害となる木竹を放置していることに困り、この禁止を申しつけていた。島民が如何に神山・ケンムンを恐れていたかを示すものである。 弓削は、神山・ケンムンを恐れる観念が、薩摩藩の土地開墾政策において「妨害」観念であったことを示し、「今日、このような島民の山之神、ケンモンに対する「恐候心」は、自然とのかかわりという点で、非現代的なものとあるとだけ認識することは出来ないであろう。」と指摘している。 4.ケンムン譚 では、ケンムン譚はどれほどあるのであろうか。わが国の怪異・妖怪の事例については、国際日本文化研究センターによって積極的な収集が行われており、「怪異・妖怪伝承データベース」(http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB/)が構築されている。このデータベースは、民俗関係の調査などでこれまでに報告された怪異・妖怪の事例を網羅的に収集して、その全体像を把握するとともに、データベースとして構築することで検索性を高めて、世界の研究者や一般市民にむけて広く公開することを目的にしている(データベース概要よりhttp://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB/gaiyou.html)。本調査の実施に際し、国際日本文化研究センターより、鹿児島県分のデータの提供を受けた。この場を借りて厚く御礼も申しあげる。 「怪異・妖怪伝承データベース」の数字をみると、鹿児島県の事例が971件収録されており、うち奄美群島の事例が532件と県全体の半数以上を占めている。ケンムン・ガラッパと明記されているのが176件、イシャトウが3件記録されている。 これと別途、奄美関連の文献からケンムン譚382件を収集した。用いた文献は、次のとおりである。 ・ 奄美群島観光連盟・奄美群島広域事務組合(2011)『奄美の情熱情報誌[ホライゾン] Vol.33』 ・ 恵原義盛(1988)「奄美のケンモン」『日本民俗文化資料集成8 妖怪』三一書房 ・ 小野重朗(1982)『奄美民俗文化の研究』法政大学出版局 ・ 文 英吉(2008)「奄美カッパ「けんむん」譚」『奄美大島物語 増補版』南方新社 ・ 瀬戸内町町誌編集委員会編『瀬戸内町誌 民俗編』 ・ 龍郷町誌歴史編さん委員会編(1988)『龍郷町誌 民俗編』 ・ 田畑千秋(2005)『奄美大島の口承説話』第一書房 ・ 田畑千秋(2007-2010)「ケンムンばなし」『南海日々新聞』 ・ 田畑英勝編(1954)『奄美大島昔話集』 ・ 田畑英勝(1976)『奄美の民俗』法政大学出版局 ・ 登山 修(2000)『奄美民俗雑話』春苑堂出版 ・ 山下欣一(1979)『奄美説話の研究』法政大学出版局 ・ 和泊町誌編集委員会編(1984)『和泊町誌 民俗編』 2014年3月時点で、奄美群島の怪異・妖怪の事例を914件収集することが出来た。

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