平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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22 環境文化としてのケンムン 中山清美(奄美市立奄美博物館館長) 岡野隆宏(鹿児島大学教育センター) 1.ケンムンという存在 奄美大島には国際的な希少種のほかにもうひとつ大切なモノが分布する。人間の子どもくらいの大きさで、全身は毛に覆われている。相撲を好み、ガジュマルやアコウに棲んでいる。そうケンムン1である。その存在や行動は多様で、あらゆる怪異がケンムンの仕業とされている。例えば、夜に思わぬところでみる青白い火は「ケンムンマチ」と呼ばれる。つい先日も肝試しで山に入った若者の車が、青白い光の玉に囲まれて、青ざめて山を下りてきたそうだ。 ケンムンは人の生活空間と自然との境界線に存在するといわれる。人が自然との共生のおきてを守っているときには、安寧と幸福をもたらす神として、自然との共生のおきてを破るときは、荒ぶるムン(悪霊)として人をふるえさせる(田畑千秋「ケンムンばなし」南海日日新聞)。 私たちは自然に育まれて生きている。一方で、その自然は時に大きな災厄をもたらす。人は自然に感謝するとともに、思うようにならないものとして畏れ敬ってきた。それは自然との関わりが濃いほど深くなる。感謝の念と敬いは祈りとなり、畏れは怪異に遭遇させる。奄美の島々に、祭祀とケンムンが色濃く生きているのは、このことと無関係ではない。 名越佐源太『南島雑話』 1 シマによって発音が異なったり、文献によって標記が異なるが、本稿では便宜上ケンムンの名称を使用する。

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