226 また、ショッチョガマは「ユラ、メラ」のかけ声にあわせて揺らして潰すが、リズムを合わせるにもコツがいる。 たとえば、前日に祭祀の話をきき、揺らし方を学ぶ講習会を体験プログラムとして実施することは考えられないだろうか。さらに、ショッチョガマの後は平瀬マンカイを見学し、浜での会食の輪に加わり、八月踊りをシマの人と一緒に踊れるならば、シマの心にふれる魅力的なプログラムとなる。その参加費が祭祀の継続に使われるとなれば、遠方からの参加者も見込めるプログラムとなる。 このようなプログラムを実施する上で重要なのはマネージメントである。シマの祭祀行事などで、直接お金を徴収するには気が引けるシマの方も多いだろう。また、もてなしの心があるばかりに無理なお願いも聞いてしまいがちである。仕組みをつくる時は、日々のくらしのペースを乱さないことも大切である。これは、先に提案したシマ歩きでも同じことが言える。このため、観光客や観光事業者と、シマをつなぐマネージメントが大変重要になる。シマを出た若者が、このようなマネージメントに仕事として携われるような環境の整備が望まれる。 6.奄美群島が世界自然遺産になる意味 ここまで、調査結果を踏まえて、環境文化に依拠した世界自然遺産のあり方についての提案を行った。本調査を通じて、奄美大島の豊かな環境文化に改めてふれることができ、ご協力を頂いた多くの方に感謝を申しあげたい。この環境文化を活かすことで、他に例を見ない魅力ある世界自然遺産となることが期待される。私が接した多くの方は、シマへの誇りに満ちており、このような方々が、環境文化をうまく伝えるプログラム化に取り組むならば、地域づくりにも貢献できると思われる。しかし、奄美群島が世界自然遺産になることは、奄美群島にとどまらず、国際的にも大きな意味を持つと考えている。 2013年11月に第一回のアジア国立公園会議が宮城県仙台市で開催された。アジアの40の国と地域から800人に及ぶ保護地域の関係者が集まり、アジアらしい保護地域のあり方について議論を交わした。西欧諸国では、原生的な自然を対象に、人の影響を極力排除して管理するのが保護地域の理想とされてきた。その頂点にあるのが世界自然遺産である。 今回の会議では、アジアに見られる自然に対する深い崇敬が注目された。そして、自然の聖地など地域の文化や伝統に深く根ざし、地域社会が大切にしてきた場所は、人々や社会の精神的な豊かさや福利に資するだけでなく、生物多様性と生態系サービスの保全においても貴重な役割を果たす保護地域であることが確認された。 現代社会が直面する環境問題は、近代科学技術がもたらした恩恵と表裏一体の関係にある。全ての現象が科学的に説明され、コントロールできるという考えによって、科学技術は格段に進歩した。その背景にあるのは、人と自然を別なものとして捉える考え方である。西欧的な保護地域も同じ考え方の中にある。東日本大震災と福島原子力発電所事故により科学技術への過度な依存に警鐘が鳴らされている今、近代科学技術文明への反省と、人と自然の関係の問い直しが求められている。 いうまでもなく人は自然の一部である。大切なのは、将来世代の生活の安定を第一に、自然に対する欲と慎みの折り合いをどこでつけるかを考えることだ。 今も色濃く残る自然を畏れ敬う心。人々が利用しながらも、あふれる生命を宿す森林。分かち合い支え合う人と人とのつながり。人と自然が渾然一体として成立してきた奄美・琉球の島々。現代社会を考えなおす手がかりは、この地域が発する「自然との共生」のメッセージにある。これは新たな意味の世界自然遺産といえよう。その根源的な価値は奄美群島の自然と文化、それを育み引き継いできた人にある。世界遺産への取り組みを契機として、奄美群島の自然と文化が、誇りを持って将来世代に引き継がれていくことを願っている。
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