平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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225 奄美大島の各集落で行われる豊年祭は、主として稲作の豊作に感謝する行事である。平瀬マンカイとショッチョガマが引き継がれている龍郷町秋名集落と幾里集落は、田袋に水田が拡がる奄美大島らしい風景を維持している。ショッチョガマの祭り場にあがると、田袋を一望にできる。稲作を続けている人にお話を聞くと、「平瀬マンカイとショッチョガマは稲作の祭り。やっぱり稲作は続けないと」という声が聞かれ、祭祀が稲作を続けるモチベーションにもなっているようである。しかしながら、高齢化により稲作を行う人が減少傾向にあって、風景の維持は簡単ではない。西仲間集落では豊年祭に悪綱引きが行われるが、この綱は秋名・幾里から購入した稲藁でなわれている。稲藁は、奄美大島の他のシマの豊年祭でも使われおり、秋名・幾里で稲作が消えると、奄美大島の各地の豊年祭に影響が及ぶ。平瀬マンカイとショッチョガマも、多くの人手と経費を要することから、高齢化と人口減少が進む集落の力だけではその維持は安泰ではない。 必要なのは稲作と祭祀を支援する仕組みである。国の重要無形文化財である平瀬マンカイとショッチョガマは全国的にも名が知られ、例年島内外から多くの見物客が訪れる。世界遺産に登録されれば、その数が増加することが予想される。提案したいのは祭祀の会場での新米の販売である。現在は、寄付を受け付けているが任意であり、逆に新米のおにぎりが無料でふるまわれている。 全国的には地場産品に「ものがたり」をつけて販売することで、地域産業の維持を図っている例が多く見られる。たとえば、コウノトリの野生復帰が進めている兵庫県豊岡市では、コウノトリの餌場環境を保全する「コウノトリを育む農法」で育てられているお米は「コウノトリの舞」というブランドで販売されている。コウノトリの姿を見て、コウノトリの野生復帰を応援したいという人、コウノトリも住みやすい環境作りに共感した人、コウノトリに優しいお米は自分にも優しいと考える人、そんな人たちが具体的に参加できる仕組みとして機能している。割高であるにも関わらず好評を得ているのはその「ものがたり」にある。 コウノトリの舞 秋名・幾里でいうなら、平瀬マンカイ・ショッチョガマの祭祀と奄美大島の稲作を支援するために、たとえば「マンカイ米」と名付けて販売することが検討されてもよい。少し割高に設定したとしても、奄美大島の祭祀と風景を引き継いでいくための支援として情報発信がされるのであれば、賛同して購入する人も少なくないと考える。 6)祭祀体験 ショッチョガマには男性であれば観光客でも参加することができる。しかし、何も知らずに参加するのと、シマの人の思いや祭祀の意味を知って参加するでは得られる感動が違うだろう。

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