223 4)サテライト施設の整備 シマを歩く人のために、標識や休憩所を整備することが望まれる。それはシマの景観を損なわないものでなければならない。休憩所も同様である。ここで提案したいのは伝統的民家を活かした休憩施設の整備である。 西仲間は「ヤマシャ」・「ヤマク」の集落である。集落の家は、ヤマシャが山に入って樹を一本ずつ吟味し、伐り出して、加工して、組み上げたものである。図面はなく、一人の棟梁が指示をだし、役割分担で「ウバン」(ご飯だけ、日当なし)でおこなったとされ、その技術の高さに驚かされる。また、ヤマシャは木の特性を熟知しており、まさに「適材適所」で家を作った。以下はヒアリングでお聞きした言葉である。 ・シイは下のほう、「ネダ」や「柱」に使うのが多い。シイは雨に強い。屋根をふく「ヒラキ」もシイを使った。タンニンが多くて強い。 ・上の「桁」にはユス、アオモモ、アカモモ、イジュが多い。イジュは雨には弱い。 ・リュウキュウマツは床材に用いたが、腐るのが早い。 奄美大島の伝統的民家はその構造にも特徴がある。「ヒキモン構造」と呼ばれ、大きな断面の梁を柱が突き抜け、組み合わせる構造である。『復刻 奄美生活誌』(恵原 2009)によれば、大材のことをヒキムンと称し、担ぎ降ろすことができず、多勢で縄を掛けて引き降ろすのでこの名があるとされる。 この構造は一本の柱を基礎から天井まで貫通させるため、強風による抵抗を受けてもその形を維持したまま横転するとされる。柱と束石も固定されておらず、横転した民家は集落の人が力を合わせて元の位置まで運び、住まいとして再利用できるという(村尾ら 2001)。実際に、ヒキモン構造にお住まいの方のお話を聞くと、がっちり組み合わされているため、台風にもビクともしないとのことであった。台風の常襲地帯であり、かつ部材用の木材資源が少ない奄美大島の画期的な構造とされる(村尾ら 2001)。 ウラハネヤの側面構造(恵原 2009より) ヒキモン構造のもうひとつの特徴が、単純明快な構造であるが故に、解体が容易で、解体による部材の破損や欠損が少ないため、移築再建が容易とされ、実際に明治初期から昭和後期にかけて、旧住用村から旧笠利町の東側へ、大和村から笠利町西側に移築されていたことが報告されている(東・木方 2012)。西仲間集落におけるヒアリングでも、笠利や龍郷は森林資源が少ないため、住用で家を買い、ばらして筏で組んで運び、移築したという話を聞くことができた。遠くは喜界島や与路島まで運ばれており、このような移築は30年代まで行われていたようである。
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