222 シマ歩きを体験した学生からは、「風景が違って見えた、懐かしさがある」、「暮らしのストーリーが聞けた」、「おもてなしの心を感じた」、「文化を大切にしている人とふれあうことで、自分たちの文化を考えた」 といった感想が聞かれた。シマ歩きを通して、シマガイドの話を聞くことで、「ユイ」、「もてなし」、「わかちあい」といったシマの人の心にふれ、さらにその背景にあるシマの空間を垣間見られたたことが忘れがたい経験となったようである。 最後はガイドのお宅にお邪魔してお茶を頂いた。手づくりのお菓子やお漬物でのおもてなし。ゆったりとした時間の中で会話が弾む。ガイドの方も笑顔なのがとてもうれしい。お互いが笑顔になれて、自然と文化と暮らしを引き継ぐ力になる。そんな観光に育っていくことを期待する。 このようなシマ歩きとシマガイドは、奄美群島各島のシマで実践できる。取り組む上で重要なのは、4.で述べたように地域をしっかりと見つめなおしておくことである。地域で捉え直した価値の中で、対外的に発信すべきものと公開せずに大切にしていくものと予め議論した上で、地域の手によってプログラム化していくことが重要である。 3)拠点施設の整備 国立公園に指定された暁にはビジターセンター、世界遺産に登録されれば世界遺産センターの整備が期待される。環境文化型国立公園にふさわしい、地域づくりに貢献できる地元重視のビジターセンターを期待する。先行事例としては、西表石垣国立公園の竹富島ビジターセンター(通称「ゆがふ館」)がある。 竹富島ビジターセンターは、地域との議論を通じてコンセプトが練られ、丹念にヒアリングを行うことで作られた。そのコンセプトにおいて、ビジターセンターを島にある「ほんもの」に導くための導入施設として位置づけた。その役割は、島民に対する尊敬と島を散策する際のルールを伝えることである。このため、展示は全て島の言葉で構成され、島民の目線から島の自然や文化を伝えるように工夫された。島の風景や祭祀に込められた島民の思いを、島民の言葉で伝えることで、島に対する尊敬を促している。また、館内で上映される映像で、島を歩く際のルールを伝えている。 奄美大島でビジターセンター等を整備する際には、本調査で把握した1年を通したシマの暮らしや祭祀の意味、自然に対する感謝と畏れを、シマの言葉で表現すると魅力的な展示となる。祭り・シマ唄・シマ(集落)の風景の意味をしっかりと伝えることで、地域への尊敬を促すことが可能となる。また、植物や動物を紹介する際には、南島雑話における利用や戦前の食生活での利用を解説に加えることで、深みのある環境文化型の展示となる。 竹富島ビジターセンターはその管理運営にも特徴がある。環境省・竹富町・公民館で組織されるビジターセンター運営協議会で管理運営の方針が決定され、その委託を受けて地域のNPOである「たきどぅん」が管理運営を行っている。NPOたきどぅんは、ビジターセンターに集落の語り部であるオバーガイドを配置し、訪れた観光客に島のくらしを直接聞ける機会を提供している。また、「素足で感じる竹富島」と銘打ったガイドツアーを実施するとともに、オリジナルグッズを開発して販売するなど活発な取組を行っている。NPOたきどぅんの設立の趣旨は、重要無形文化財に指定された「種子取祭」などの島の文化を、継続するための仕組みづくりにある。文化を継続するためには、まずは島の暮らしが成り立たなければならない。さらに少なくない経費が必要とされる。このため、経済的な視点を踏まえた活動が行われている。 奄美大島でビジターセンター等が整備された場合にも、地域のNPOに管理を委ね、地域の自然や文化を引き継ぐ仕組みづくりに貢献することが望まれる。
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