平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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220 5.将来に引き継いでいくための仕組みづくり 1)奄美らしい観光の実現 地域の世界遺産への期待は主に観光面にある。大切なのは、経済的な利益を追求するだけでなく、地域の自然や文化の保全が図られ、地域の生活の質の向上にもつながるような観光の仕組みをつくっておくことだ。注目されるのが「エコツーリズム」である。エコツーリズムとは、地域の自然環境を保全するために、持続的な観光を通じて活動しながら地域に経済効果を生みだし、その利益を地域社会の福利や環境保全に還元させる仕組みである。その考えのもとに作られる商品が「エコツアー」である。 2013年に提出された世界遺産条約に基づく暫定一覧表によれば、奄美・琉球の世界遺産としての価値の中心はアマミノクロウサギ、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコなどの野生生物にある。しかし、アマミノクロウサギなどは夜行性であり、昼間の観光で見ることは難しい。見ることや見せることを追求すれば夜の森への入込みが増大し、生息環境を脅かすことになる。たしかに、本物の野生生物を見ることは感動が大きい。しかし、ナイトツアーで私たちが目にするクロウサギは脅えて逃げていくクロウサギである。これが頻繁になって生息環境が損なわれれば、アマミノクロウサギは姿を消し、結果的に観光は成り立たなくなる。 希少な野生生物中心の観光は、生物への影響が大きく、多人数の要求を満たすことは難しい。そこで、自然とともに地域の文化や産業を魅力的に伝えるガイドプログラムを開発し、織物などの伝統工芸、魅力的な農作物、豊かな食文化などを交えた総合産業としての観光を進めていくことが望まれる。このような観光を実現していくためには、世界遺産となった地域だけではなく、その外側を含めた島全体でのエコツーリズムを考える必要がある。 世界遺産登録地域の外には、大人数のツアー客に奄美の森の雰囲気を気軽に味わってもらうため、森林を歩いて体感する遊歩道、樹上歩道など新たな視点から森を眺める施設、地域の自然や文化を紹介する展示施設を整備すべきであろう。通常では見ることが難しい野生生物については映像で見せるのが良いだろう。そこに地場産品販売所を併設して、第一次産業への波及効果を高めたい。 世界遺産登録地域の中では、利用人数の調整や利用ルートの一時的な閉鎖などのルールを設け、自然環境の保全を優先するべきである。そして、質の高いガイドの案内による魅力的なプログラムをつくり、少人数のお客さんに自然をじっくり楽しんでもらうのが良い利用方法だ。特にアマミノクロウサギのナイトツアーについては早急なルールづくりが求められる。 ガイドは、自然科学及び地域社会に関する十分な知識、楽しくわかりやすくお客に伝えるインタープリテーション技術、十分な安全管理がスキルとして求められる。しかし、その前提として重要なのが、地域とのコミュニケーション、地域社会及び環境保全への貢献だ。これらがそろって初めて「エコツアーガイド」といえるのではないだろうか。満足度の高いプログラムを提供し、環境保全や地域社会の質の向上につなげるためには、奄美らしいエコツアーガイドの認定制度の創設が望まれる。

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