平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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219 奄美大島では今年度に学生とともに聞き書きをおこなった。自分の人生や地域のことを見つめ直す機会を得た「話し手」は、生き生きと思い出話を語り、次から次に出てくる話に「聞き手」はひきこまれていく。「話を聞かれなかったら思い出さなかった。ありがとう。」と思いがけず感謝の言葉も頂いて、共に楽しい時間を過ごすことが出来た。「話し手」は元気になって帰っていく。記録をとることは大切な作業だが、なによりも楽しく元気になれる力が「聞き書き」にはある。 豊かな自然とのふれあいの記憶があるのは現在80歳代のお年寄りである。「聞いとけばよかった」、「記録を残しとけば良かった」とならないために、地域の壮青年団や中高校生が取り組むことを提案したい。 奄美群島では「文化財総合的把握モデル事業」(文化庁)から生まれた「奄美遺産」の取り組みが進められている。従来の文化財の枠組みを超えて、地域が大切にしてきたものを把握・保存・活用しようとする試みである。この取り組みでは、島民が「敬い、守り、伝え、残したい」と思っているものと、一定時間の間に渡って「受け継がれてきたもの」を、遺跡や自然物など実体ある要素以外にも、生産・採集や遊びなどの空間的要素も含めて「市町村遺産」として把握することを目指している。その中から、奄美群島で大事にしていくものを、市町村の提案に基づいて「奄美遺産」として認定し、保存と活用を図るものである。 「聞き書き」や「奄美遺産」の取組を通して集めた情報は、イラストマップや年表にまとめると、世代間の継承や観光への活用が期待できる。本調査では、二つの集落で地図を作成したが、イラストを交え、シマの言葉を加えるとより魅力的なものになる。 綾町上畑人と自然のふれあいマップ (上畑自治公民館・綾町・日本自然保護協会ふれあい調査委員会) このように地域の見直しを進めることで、地域の個性は磨かれて世界に輝きを放つ。それは、地域への誇りを生み、精神的な豊かさをもたらす。これらの取り組みが教育面で活用されれば世代間の自然と文化の継承にもつながる。加えて、見直された地域の価値がシマのガイドの口から誇りをもって語られるならば、魅力的な観光プログラムとなる。

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