平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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218 ■人と人をつなぐ 「聞き書き」は、一対一の対話を通じて、「話し手」の人生や価値観を引き出し、記録する作業です。「話し手」の言葉はすべて録音し、一言一句を書き起こして、その語り口を活かしながら文章にまとめます。 できあがった作品は、まるで、その人が自ら、自分の人生を語っているようなスタイルに仕上がります。その人の経験や知恵、これまでに培ってきた価値観や考え方とともに、その人柄が浮かび上がります。 「聞く」ことは、コミュニケーションの原点です。「聞き手」は「話し手」に質問しながら、相手への理解を深めていきます。自分を主張するのでなく、まずは謙虚に人の話に耳を傾けること。質問を重ねながら対話する中で、その人の考えをうまく引き出すこと。素直に自分の感動を伝え、その人の気持ちに寄り添うこと。共感する姿勢が「聞き書き」には求められます。 地域に暮らす人々の言葉に耳を傾け、その思いを聞くこと、対話をして書きとめるという共同作業をすることで、相手を信頼し尊重することが可能になります。同時にそれは、その地域の自然や歴史、文化を見つめなおす作業につながるものと考えています。 ■世代と世代をつなぐ 私たちの生活文化は、その土地の自然や風土と深く対応しながら形成されてきました。文化は人から人へ、世代から世代へと伝わるうちに、その時代の、あるいはその人なりの知恵や工夫や価値観を加えつつ、受け継がれていきます。 同じ林業に携わる名人でも、育てる樹種や作業のやり方は、その土地の自然条件や歴史、名人の技術や考え方などによって異なります。 それらをひとつひとつ丁寧に集めていくと、その地域の特色や風土、歴史、生活文化が浮かんできます。「聞き書き」で記録するのは、人々が自然とともに生きる中で育んできた有形、無形の文化であり、歴史であり、生きるための知恵、生き方そのものなのです。 年長者の話に、きちんと耳を傾けてみましょう。長い人生の間で培ってきた経験は、私たちの未来にとって学ぶべきことが多いはずです。 先人たちの生活技術と知恵の集積を若い世代が聞くことは、伝統的な二次的自然の利用・管理手法の再評価や今後の保全活用につながる新たな手法の発見にもつながると考えています。 ■人と自然をつなぐ SATOYAMA イニシアティブは、二次的自然環境を見直し、持続可能な形で保全・利用していくためにはどうすべきかを考え、行動しようという取り組みです。より持続的な形で土地および自然資源の利用と管理が行われるランドスケープの維持・再構築を目指して以下の 3 つの行動指針を提案しています。 ・多様な生態系のサービスと価値の確保のための知恵の結集 ・革新を促進するための伝統的知識と近代科学の融合 ・伝統的な地域の土地所有・管理形態を尊重した上での、新たな共 同管理のあり方の探求 行動指針では人間の福利の向上をもたらす多様な生態系サービスと価値に関する理解と知恵の結集は不可欠の要素です。「聞き書き」によって、その知恵や技術、暮らしの詳細を収集し、集積することも必要になってきます。 先人たちは、里山や里地、里海をどのように持続的に利用し、管理してきたのか。人々はどのような自然に対するルールをつくりながら、ひとつの共同体として力を合わせてきたのか。人間の働きかけによって、いかに生物多様性は保たれてきたのか。そのことを知るためには、そのような暮らしを実際に営んできた「人」に聞くしかないのです。 人と人、世代と世代、人と自然をつなぐために。ぜひ「聞き書き」の手法をご活用ください。 (『聞くこと・記録すること 聞き書きという手法』2012 より)

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