平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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213 そのシマ(集落)は宝の山であり、お年寄りはその宝の保持者である。地域の人によるシマ遺産調査は自分たちの足元を見直すことで自然と人の生業や生活空間が明らかになる。そして、お年寄りからの聞き書き調査は地域の個性を読み取れるということになる。それらを継承し、生活や生産活動、観光などに活用すること、そして、発見、調査、評価、保存、再生、創造、維持、継承、活用といったサイクルをしっかりと監視(モニタリング)することなどプロセス全てを西山徳明は「文化遺産マネジメント」と位置付けている。このことは奄美・琉球の世界自然遺産で取り組む環境文化型とも連動し、奄美型文化観光も視野にはいる。 今回の調査は鹿児島大学が環境省の事業を受託し、奄美のシマ遺産の取り組みと連携して行っている。その成果は自分たちでできる新たな取り組みとして期待されるものである。 これからの課題は山積するが、行政の横の連携と同様の事業を整理する必要がある。また、先述した文化庁の平成25年度から取り組まれている教育委員会制度の在り方を含め、「首長部局が行う開発行為との均衡を図る必要性」の意見で「・文化財を戦略的にまちづくりに活かしていくという観点からは首長部局が望ましいのではないかという意見がある一方で、埋蔵文化財について、首長部局に移してしまうと開発行為との均衡性という観点から不安がある。」という意見と「・文化財に関して、教育委員会の専権的事項とされていること自体には問題はないが、首長部局との情報共有不足が問題。」という国の文化行政の指摘が奄美遺産の取り組みの大きな課題と全く共通しているということになる。奄美遺産の取り組みの壁はまだ、乗り越えきれていないのが現状である。それぞれの市町村による予算化では温度差があり、完全に解決されていない。また組織の在り方や市町村遺産の認定と奄美遺産の認定(文化、観光関係機関)協議など課題は多い。ただし課題が見えてきたことでそれを取り除くための努力も見えてきた。その成果は歴史文化基本構想につなげ、観光振興や地域活性化事業として活かすことを目的とするが先はまだ続く。シマ遺産調査と聞き書き調査で確実な1歩を歩むしかない。 それは悩みと苦しみと愛の過程を大切にしていくという理解でもある。 ■参考資料 今福竜太『群島』-世界論- 2008年11月 岩波書店 大島支庁『奄美群島の概況』平成22年 環境省『奄美地域の自然資源の保全・活用方策検討調査業務』平成21年3月 岸本義彦「琉球列島の自然と考古」『沖縄県史』 高宮広土「沖縄諸島先史時代からのメッセージ」『生態資源と象徴化』平成19年3月 中山清美『掘り出された奄美諸島』平成21年6月(財)奄美文化財団 弓削正己・岩田雅朗・飯田卓・中山清美『名瀬のまちいまむかし』2012年3月 南方新社 西山徳明 「文化資源マネジメントと地域づくり」―文化資源からはじまる歴史文化まちづくりー『まちづくり』季刊35 1207 2012年7月 学芸出版

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