18 7.先史時代からの動植物の食利用 先史時代の食用についてはリチャード・ピアソンが有用植物としたものにイタジイ、アガサ、蘇鉄、キイルンヤマノイモ、オダカの5種があげられている8。また、高宮広土は琉球列島における可食動物数はリュウキュウイノシシと海ガメが主で7種しか知られていないという。奄美大島においてはこれにアマミノクロウサギが加わる。意外と陸上における可食可能な食用種は少ないことがわかる。 海における可食可能な資源はピアソンによると世界のサンゴ礁の中でも宝庫であると述べている。奄美群島においてもここ数年の遺跡から出土する貝類遺体の黒住耐二や漁骨遺体の桶泉岳二、緑川弥生などの調査成果からは縄文時代相当期はリュウキュウイノシシが多く、マガキガイやチョウセンサザエ等へと優占種が移行するがサンゴ礁域での魚介類漁撈と堅果類の採集は変わらないとしている。このような調査成果から奄美大島における先史時代の主な陸上食用は現在もブロッコリーのようにモコモコと山を覆っているスタジイを主としていることがわかる。海産物は先史時代の遺跡全般に見られるチョウセンサザエ、マガキガイを主にイソハマグリ、サラサバティラ、シラナミ、ヒメジャコ、ヤコウガイなどがあげられる。ピアソンは蘇鉄も上げているが縄文・弥生時代相当期の遺跡から植物遺体の検出がまだないため保留にしている。奄美大島の人々が大切にしている蘇鉄は生活の中でも重要な役割を果たしてきており、積極的に管理し利用している時代がどこまで遡るのかこれからの楽しい課題がまたひとつ増えたことになる。 九州においては甲元眞之、小畑弘己を主とする熊本大学が「九州古代種子研究会」(会長甲元眞之)を組織して積極的に調査を進めており、大きな成果を上げている。また、宮崎考古学会長岩永哲夫の『考古学者のドングリ交遊記』―縄文の主食を求めて―も実践を兼ねた論考をおこなっている。岩永はこの本の中で縄文時代の食料は哺乳類動物60種、貝類350種、魚類70種、鳥類35種、植物55種とされている食料などの他にドングリによる現在のレシピも紹介しており本人が実に楽しそうに紹介している9。 奄美の四季はシマの人にとってあまり季節感を鮮明に区別できないが、魚介(漁撈)に関わる季節感はとても敏感である。海人は旧暦カレンダーによる潮の干満や海流の流れなどを読み取って漁に出かけている。奄美市漁協の原永竜博や漁師から聞き取り調査を行ったのが図4「魚介類カレンダー」である。このデーターは現在奄美市漁協(笠利)に水揚げされているものを主に聞き取り調査を行ったものであり、禁漁期間などを考慮しなければならない。また、大島の各地区においても漁礁の特徴などから若干のずれは否めない。この図からは岩永哲夫が九州の事例で「春は山菜、夏は魚介類、秋は堅果類、冬は動物」という九州のカレンダーとも多少の地域差による違いがみられるがほぼ同様なデーターを示している。今回の聞き取り調査の成果においても冬場は豚、猪、牛などの肉食が多く、旧暦6月は「ロッカツ、ヒンジャ―」(6月の山羊)の山羊を食べると薬と言われ、またやがて訪れる猛暑に対し、夏バテしないと言われている。この時期から魚類食へ移行しているのがわかる。
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