205 第Ⅴ章 「奄美遺産」の取組と模索 「奄美遺産」の取組と模索 中山清美(奄美市立奄美博物館館長) 1.はじめに 文化庁の「文化財総合的把握モデル事業」(平成20年度から22年度策定)を踏まえ、平成23年度から奄美群島12市町村が広域文化行政として地域遺産の活用に取り組む事業として奄美群島文化財保護対策連絡協議会の総会で決議されたのが「奄美遺産」である。 平成23年度から調査の進め方を示すとともに12市町村のシマ遺産(集落)リストづくりが始まった。平成24年度にはパンフレットの作成を行い、12市町村へ人口割で配布し、12市町村のシマ遺産調査を行う作業も実施しCDと紙媒体にして総会で配布することができた。平成25年度は昨年度調査された暫定リストを基に奄美遺産認定会議を行う予定であったが、12市町村への周知徹底が図られていないことなどが取り上げられ、課題は多い。 奄美遺産の取り組みはそれぞれでシマ(集落)遺産の踏査を行い、シマ遺産から市町村遺産へ、市町村遺産から奄美遺産へ認定しようとするものである。シマ遺産の取り組みは各市町村で予算化して取り組み、シマ遺産の取り組みができない町村には事務局から手伝いに行くことした。しかし、どうしても事務局組織の人員と事業を進める予算の面で奄美遺産を完全にマネジメントする体制は整えられていない。ここではこれらの問題を整理し、これまで実施してきたシマ遺産の取り組み成果を今後どのように活かしていくのか手探りの現状を紹介する。 2.文化財保護行政の推移と奄美遺産の誕生 文化庁の定める文化財保護法は昭和25年に制定され、文化財保護委員会の設置がなされる。昭和29年、昭和43年と改正され、この年に文化庁が発足する。昭和50年の改正で高度成長時代に伴い、埋蔵文化財に関する制度の整備が見直される。平成8年の改正で文化財の登録制度の創設、平成11年の改正で都道府県への権限移譲が行われる。平成16年に文化的景観の保護制度が創設される。このあたりから、自然と人の関わり方や歴史都市などを観光産業につなげようとする動きが見られ始める。環境省はユネスコによる世界遺産の取り組みを進め、観光庁では歴史と文化を目玉とする地域観光を推し進め双方とも地域振興や地域経済に貢献している。一方、「文化財では飯が食えない」と世間からは少し離れた状態に文化財が置かれる。 しかし、平成16年に文化財保護法の改正によって重要文化的景観の制度が創設され、平成19年には歴史文化基本構想の提言が行われ、国の法律においても歴史と文化を活かしたまちづくりが模索され始める。その流れの中に、「奄美遺産」を取組む契機となった「文化財総合的把握モデル事業」があった。文化庁のこうした文化遺産マネジメントに向けた取り組みを行っていたのが北海道大学教授の西山徳明であり、琉球弧を世界自然遺産に向けた取り組みを行っているのが東京大学特任教授の小野寺浩である。この二人に文化庁の文化審議委員を務めている東京大学名誉教授で奄美の歴史研究を行っている石上英一と同じく国の文化財保護審議員も務め琉球弧の考古学研究に取り組んでいる熊本大学教授の木下尚子などに、「文化財総合的把握モデル事業」の委員をお願いし、3年間の議論の末に生まれたのが「奄美遺産」である。そのため、
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