平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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180 屋久島・環境教育の20年 小栗有子(鹿児島大学生涯学習教育研究センター) 1.目的 ここでいう屋久島・環境教育の20年とは、屋久島が1993年に世界自然遺産に登録されてから2014年までの20年を意味する。この間に「屋久島環境文化村」のコンセプトに即して環境教育がどのように進展してきたのかを検証することが本項の目的である。 2.検証の視点 検証は、次の視点に基づいて行うものとする。 第一は、屋久島環境文化村の理念1から要点を抽出し、環境教育を捉える視座を定める。 第二は、人々の環境学習を支える環境教育の条件整備に焦点を置く。 (1)環境教育を捉える視座 屋久島環境文化村の理念に底流する考えは、「共生と循環」の原理の再生である。農耕文明に始まり都市文明やそれにつづく近代科学技術文明は、「共生と循環」の原理を置き去りにし、自然界におけるバランス(自然と人間活動のバランス)を喪失させてきた。一方、森の文化には、「共生と循環」の原理が貫かれている。森の文化の典型は縄文時代にみることができ、屋久島は森の文化という伝統的な日本の文化の原点である。屋久島には、縄文杉を頂点とする生命力あふれる自然と森の文化と自然とともに生きていた暮らしの知恵が残されている。 環境文化村構想は、共生の原型としての社会のシンボル的存在の屋久島から世界に向けて文明の原理の転換を問いかけることをもくろむ。同時に、屋久島の地域的課題の解決とその活性化の手だてを提供することをめざす。つまり、屋久島環境文化村構想は、現代社会への問いかけと屋久島の地域的課題という二つのテーマを統合する試みとして提案されている。 環境文化村の試みの実際としては、自然の保護と生活との対立を越える、自然と共生する新たな地域づくりをめざし、次のポイントを挙げる(屋久島環境文化懇談会報告書 p.9)。 ①環境文化を手掛かりに ②フィールドミュージアムとしての環境文化村 ③環境文化村における環境学習 ④環境学習から地域づくりへ 屋久島環境文化村は、狭義の事業としての環境学習の必要性について言及するが、環境文化村としての試み全体が、「自然及び自然と人とのかかわりに対する認識を深めることを通じて達成される」ものという考えに貫かれている。たとえば、①では、「環境文化」について学 1 屋久島環境文化の理念は、「屋久島環境文化懇談会報告」(平成4年9月23日)や「屋久島環境文化村マスタープラン」(平成4年11月)

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