平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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176 ってもたらされた外部からの眼差しは屋久島のごく一部にしか光を当てていない。 4.山岳部における保全管理の取組 山岳部の自然環境と利用環境の悪化に対して、関係機関もただ手をこまねいていたわけではない。1994年には、利用者の増加に伴う自然環境と利用環境の悪化に対応するため、関係行政機関に観光協会等を交えた屋久島山岳部利用対策協議会が設置された。ここでの議論を踏まえる形で、登山道やトイレの整備、屋久島山岳部保全募金の設立、携帯トイレの導入、マイカー規制とシャトルバスの導入などの対策が行われてきた。このような先進的な取組の結果、自然環境への負荷や利用環境については一定の改善が見られている。その一方で、利用環境の改善がさらなる縄文杉への集中を招くという皮肉な結果をもたらした。 2009年には、屋久島世界遺産地域科学委員会が設置され、2012年には新たな管理計画が策定された。管理計画では、遺産地域外への利用の分散と、登山者や観光客のコントロールや利用ルールの策定など利用の適正化を推進することが記述された。 2011年には、屋久島町エコツーリズム推進協議会の議論を基に、縄文杉への1日の登山者の上限を420人とする条例案が屋久島町議会に提案された。しかしながら、経済的損失を懸念する声が強く、時期尚早として否決された。その背景には、縄文杉観光を育てたのは我々であるという観光事業者の自負と、上限の数字に固執した行政機関に対する反発があった。

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