平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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171 島民の幅広い参加で議論を深め計画と地域との関係を強固なものすることが意識された。いわば「屋久島方式」と呼ぶべきあり方を追求することとした。第1に、住民の意見の聴取や地域資産の掘り起こしなど徹底した地元重視の姿勢を貫き、第2に、情報公開に基付く開かれた論議を保障し、この姿勢の中から、地元代表による「屋久島環境文化村研究会」が設置され、県の設置した組織「屋久島環境文化懇談会」・「屋久島環境文化村マスタープラン研究委員会」とともに検討を進めるという、屋久島ならではの取り組みがおこなわれた。ここで提言されたのが、「共生」「循環」「参加・交流」「国際」「環境学習」の5つの理念である。 もうひとつが、島のゾーニングである。地域の自然意識、主として景観認識を大きなファクターとして「保護ゾーン」「ふれあいゾーン」「生活文化ゾーン」に区分された(図2)。保全と利用の大枠を定めることで、保護か開発かといった二項対立の回避と、利用の分散を図ることが意図されている。 最後は、観光の将来ビジョンである。観光入込客の増大に任せるのではなく、「環境文化」に基づく新たな観光の創造を目指して質的転換を図ることが謳われている。特定地区への集中を避け、複数の利用拠点への分散を図るために、環境キップ制度や自然体験型観光「エコツアー」の開発が提案されている。 屋久島の自然と歴史や文化の根底にある「共生と循環の原理」について、幅広い人々の間に意識を拡大していくことは、屋久島環境文化村構想の一側面であり、地域の幅広い人々の関わりが前提となる。 3.世界遺産登録後の変化 世界遺産登録後の変化をいくつかのデータで示す。1993年に約10万人であった入込客数は、2007年に約40万人を数え、現在は30万人前後で推移している(図1)。宿泊施設数はこの20年で3倍となり定員は倍増した(図2)。自然を案内するガイドが160人を超え(図3)、大きな産業に成長している。減少を続けていた島内の商店数は、世界遺産登録後に横ばいとなり、従業員数は増加に転じた。大型店舗が増えたことが数字に表れている。 また、地域住民とりわけ子供や若者が自らの地域に誇りを感じ、アイデンティティ(帰属意識)を得られるようになったと報告されている。減少を続けていた屋久島の人口が、世界遺産登録を境に増加あるいは横ばいで推移しているのは、このような経済的・精神的効果の現れと考えられる(図4)。

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