平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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166 住用干潟の底生生物群集 山本智子(鹿児島大学水産学部 附属海洋資源環境教育研究センター) 1.はじめに 住用マングローブ林はメヒルギとオヒルギで構成され、住用川と役勝川の合流地点に広がっており、面積は70haあまりである。マングローブ林の下流側には、広大な干潟が広がっており、本調査はこの干潟において、2013年9月の大潮干潮時に行った。干潟全体に24ステーションを設置し、直径17cmの塩ビパイプ(コア)を用いて、底生生物の採集を行った。底質中にコアを約10cm差し込み、その中の堆積物を1mmメッシュの篩でふるって残った生物を採集した(写真1,2)。1ステーションにつき3回この作業を繰り返し、採集した生物は70%エタノールで固定して研究室に持ち帰った。 2.調査結果 全ステーションで採集された底生生物は、5つの門に属する27種312個体であった(表1)。そのうち14種264個体が節足動物であり、最優占種はミナミコメツキガニであった。軟体動物と環形動物はそれぞれ6種と5種しか採集されず、ヒモ型動物と脊椎動物が1種ずつ見られた。 節足動物は全て軟甲綱に属し、スナガニ科やコメツキガニ科を中心とした堆積物食のカニ類が10種見られた。本研究で出現した環形動物は全て埋在性の種であり、多くは堆積物食である。また、軟体動物のうち多くの二枚貝は底質中に埋在して生活し、水中のプランクトンやその死骸を濾し取って食べる懸濁物食を行っている。巻き貝である腹足綱は、底質上や河川付近の転石に付着し、藻類を食べているものも見られるが、底質の表面で生活し、堆積物食を行っている種も見られる。 3.考察 この結果を、南九州の主な干潟において同じ方法(コアのサイズや設置箇所、採集方法を統一する)を用いて調査した結果と比較する。出水市にある江内干潟では、40種約400個体が出現し、鹿児島湾奥の重富干潟では、23種約900個体が出現した。いずでも最優占種は、軟体動物腹足類であるウミニナ属の巻き貝である。住用干潟では、スナガニ類を中心に底質に潜って生活する種が優占するのに対して、江内干潟、重富干潟ともに表在性の巻き貝が優占している。 また、この干潟の底生生物の密度は、2010年10月18日~20日に奄美大島で起きた総雨量が800mmを超える豪雨災害前の前後で、3分の1程に減少したが、その後主にミナミコメツキガニの加入によって迅速に回復した。豪雨の影響が比較的少なかった周辺の干潟から幼生が加入した可能性が高く、周辺の干潟とのネットワークで底生生物相が維持されていると考えられる。 ミナミコメツキガニに代表される堆積物食のカニ類は、底質中に潜って生活し、干潮時採餌の際にだけ表面で活動する。堆積物表面には微細藻類が付着し、干出と同時に盛んに光合成を行う。堆積物食のカニ類は、底質物表面の微細藻類やその死骸を摂食し、残った砂粒を捨てるという行動を繰り返すため、潮が引いてからしばらくすると、干潟表面が一面掘り返された状態になることもある(写真3〜5)。住用干潟ではこの活動のアクティビティが特に高い。堆積物食の底生生物は、陸上から流入する有機物を、食物連鎖を通して除去する機能を担っているとされており、

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