平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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161 4.考察 これまでの調査で、奄美大島の森林では一般的にスダジイが優占することが報告されている(宮脇ほか1974)。今回の調査地では、ハゼノキなどのいくつかの落葉種が高いBAを持ち優占している。亜熱帯地域での落葉種は、先駆種的な性質を持つ種が多く、今回の調査地で最も優占していたハゼノキも先駆種的な性質を持つことが知られる。これらのことから、今回の調査地は過去の土地利用の影響を反映し、落葉種の優占する森林が形成されていると考えられる。 DBH階級分布は、全体としてはL型の分布を示すが、落葉種は一山型に近い分布を示す。このことは常緑種が小径木から大径木までを連続的に持ち正常に更新していること、落葉種が小径木を持たず正常に更新していないことを示唆している。 今回の調査では、自然林において優占すると考えられるスダジイは出現していない。奄美大島ではスダジイの優占する森林を伐採してもスダジイの萌芽能力によって比較的短期間で再生することが報告されている(清水ほか1988)。しかし、調査地は撹乱後48年が経過しており、撹乱時の萌芽可能な切り株や発芽可能な埋土種子は存在していないと考えられる。よって、前述の落葉種の更新状態をふまえると、調査地の森林は時間経過につれてスダジイ以外の常緑種の優占する森林へと遷移すると考えられる。スダジイの優占する森林へと遷移するにはより長い期間を要し、調査地外からの種子供給が重要となるだろう。 引用論文 宮脇 昭、井上 香世子、佐々木 寧、藤原 一絵、本多 マサ子、原田 洋、井手 久 登、鈴木 邦夫、大野 隼夫(1974)名瀬市の植生 128pp. 名瀬市、名瀬 盛口 満(2013)琉球列島の里の自然とソテツ利用 75pp. 沖縄大学地域研究所彙報 第10号、沖縄大学地域研究所 栄 喜久元(2003)蘇鉄のすべて 南方新社、鹿児島 清水 善和、矢原 徹一、杉村 乾(1988)奄美大島のシイ林における伐採後の植生回復 駒沢地理24 :31-56 駒沢大学 湯本 貴和、田島 佳也、安渓 遊地(編)(2011)島と海と森の環境史 シリーズ 日本列島の三万五千年 人と自然の環境史4 文一総合出版、東京都

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