平成25年度地域の環境文化に依拠した自然遺産のあり方に関する調査検討業務報告書
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160 第Ⅲ章 集落周辺の自然資源概況把握調査 龍郷町秋名における畑放棄48年後の森林植生 石貫 泰三・鈴木 英治(鹿児島大学大学院 理工学研究科) 1.はじめに 鹿児島県奄美大島は亜熱帯に位置し、アマミノクロウサギなどの希少な野生生物が生息している。しかし森林に焦点を当てると原生林はほとんど残っておらず、二次林がその大半を占める。二次林の中でも過去に畑などに利用されていた森林の現況を調査した研究はない。生物多様性維持の基盤として、そういった地域の森林の回復状況の把握が重要である。 森林伐採を伴う土地利用の方法としては、林業のほかに畑の開墾のために森林を切り開く場合がある。特に戦後数年間の食糧不足した時期において、奄美大島では傾斜地の多くに段々畑が形成された。段々畑では一般的に畑の縁にソテツを植えて、土留めや防風等の役割のほかに食料にしていたとされる(盛口2013、栄2003、湯本ほか編2011)。今回の調査は、このような段々畑として利用されていた地域において、畑の放棄に伴って再生してきている森林の現況把握を目的とした。 2.調査地と方法 鹿児島県大島郡龍郷町秋名に調査地を設定した(図1)。年平均降水量は2837 mm、年平均気温は21.6 ℃(名瀬測候所 標高2.8 m、調査地から約10 km)、標高は60 m程度であった。 調査地は1964年(昭和39年)から1966年(昭和41年)までタンカン等を植えた果樹園として利用されていたが、それ以降は利用していない(土地所有者の窪田圭喜氏による)。放棄された1966年頃には調査地の周囲でイモを栽培していたと思われる。調査地内にはソテツが生育しており(図2、3)、1964年以前は畑として利用していたと考えられるが詳細は不明である。 調査地に40 m×40 mのプロットを1つ設置し、プロット内で毎木調査、地形測量を行った。毎木調査では、DBH≧1 cmの樹木について、種名・DBH・座標・樹木の状態(枯れ、幹折れ等)を記録した。またプロット内のソテツは毎木調査に加えて、枯れた幹、樹高130 cm未満の幹の座標を記録した。地形測量では、5 mごとに9本のラインを引き、各ラインに1 m間隔で360点の測量点を設置した。そして1地点を基準とし、各地点の高さを相対的に測量した(図4)。また目視で段々畑の縁と思われる崖の有無などを調査し、記録した(図2、3)。 3.結果 森林の組成を表1に示す。調査地の構成種は37種(うち落葉種11種)、胸高断面積は36.6 m2ha-1であった。胸高断面積、幹数の合計値に占める落葉種の割合は、それぞれRBA(Relative Basal Area)43.4%、RD(Relative Density)13.1%だった。RBAはハゼノキが最も高い値(18.0%)を示し、モクタチバナ(15.1%)、ハマセンダン(11.2%)がこれに続いた。RDはモクタチバナが最も高い値(29.4%)を示し、ゲッキツ(11.3%)、ヤブニッケイ(7.9%)がこれに続いた。 DBH階級分布を図5に示す。調査地全体のDBH階級分布はL型の分布を示し(図5、上)、1-5 cmにピークがあった。最大DBHを持つ樹種はホルトノキ(59.4 cm)であった。落葉種(図5、下)は、一山型に近い分布を示し、15-25 cmにピークがあった。最大DBHを持つ樹種はハマセンダン(48.4 cm)であった。

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