- 19 - その役割を担っている。 小笠原自然文化研究所は2000年に設立された団体で、「地域に根ざしたNPO研究所として、小笠原諸島の絶滅危惧種の保全を、科学的な調査研究、地域協働、保全活動をとおして実現させる。また、小笠原の文化を保存する。」ことをミッションに活動を行っている。 独自の調査研究を行うほか、学識者との共同研究、環境省など行政からの委託調査を実施している。また、捕獲したノネコの里親捜しのシステムの構築やノネコ侵入防止柵の設置などの保全活動も展開している。日常生活と自然保全との間に起こる摩擦の解消に、先頭に立って取り組むことで地域の信頼を得てきた。 このような機関が重要なのは、地域に在住することで、あるいは地域住民と一緒に活動する中で耳に入る地域の声を吸い上げて科学員会や遺産管理機関(環境省・林野庁・東京都・小笠原村)に伝えることで、地域と科学委員会、地域と遺産管理機関との温度差や不信感を緩和する働きをしている点である。しかも、科学者の集団であり、理事長が科学委員会にメンバーであることから地域の声を学識者に、学識者の声を地域に翻訳して伝えることができる。 これによって、科学委員会においては地域の実情に即した実効性のある計画が立案出来、実行にあたっては地域の理解と協力が得られやすい関係が構築されている。 ③ GENNBA AWASE 小笠原諸島では、世界遺産推薦前後から自然再生事業が導入され多くの事業が行われてきた。 自然再生事業については、自然再生推進法(平成14年法律第148号(12月11日公布))において「過去に損なわれた自然環境を取り戻すため、関係行政機関、関係地方公共団体、地域住民、NPO、専門家等の地域の多様な主体が参加して、自然環境の保全、再生、創出等を行うこと」と定義されている。理念として、「地域における自然環境の特性、自然の復元力及び生態系の微妙な均衡を踏まえて、科学的知見に基づいて実施」、「事業の着手後においても自然再生の状況を監視し、その結果に科学的な評価を加え、これを事業に反映」を掲げ、新たな公共事業として展開されているものである。 計画の策定にあたっては、地域の多様な主体の参加を得ながら、科学的知見に基づいて、省庁横断的に議論が行われているが、施工については従前の発注手順で工事が実施されている。生態系を対象としている以上、生態系の状況に応じて柔軟な工事施工が必要であるが、設計や積算に盛り込むことは難しい。そのため、過大な施設となって生態系に影響を及ぼすことや、期待した効果が得られないことが起こりうる。 小笠原諸島では、アカガシラカラスバトの重要な繁殖地である父島の東平において、ノネコの捕食からアカガシラカラスバトを守るための柵の設置が計画された。工事の施工の段階になって、支障木伐採が大きくなることや、ノネコが下をくぐらないように地形にどのようにすり付けつかが問題となった。この際に、前述の小笠原自然文化研究所がこれまでの調査研究の知見を活かした具体的な提言を環境省の担当官に行い、環境省
元のページ ../index.html#23