平成24年度「屋久島・小笠原諸島等の島しょ型世界自然遺産をモデルにしたネットワーク構築等業務」報告書
22/28

- 18 - その後も毎年の生態学会において小笠原諸島に関する自由集会が行われており、2013年にも開催された。 第 60 回 日本生態学会大会 (JES60) 2013年3 月 5 日 15:30-17:30 自由集会「世界自然遺産時代の小笠原諸島:研究者の社会的責任としての 研究ガイドラインと研究テーマの広がり」 「小笠原自由集会」は、2004 年 8 月の釧路大会で「小笠原諸島の自然再生と利用に研究者はどう関われるのか?」というテーマのもとで、研究者間の情報共有を目的として開始された。その後、同諸島は世界自然遺産候補地となり、外来種の駆除および拡散の防止、希少生物種のモニタリング、観光利用のコントロールを含む地域管理など、多様な保全事業が同時に開始された。このように小笠原諸島における生態系保全は、地域全体と密接な関わりをも持つ社会的事象として進行することとなった。これをうけて、2008 年より本自由集会では世界自然遺産時代における研究者の社会的な役割についても論議を開始した。 2011 年 6 月、小笠原諸島は世界自然遺産に登録された。2013 年の本自由集会では、上記の経緯に基づき、研究者が集まり作成した「小笠原研究ガイドライン:陸域 ver01(2012 年 10 月)」を紹介する。さらに、2007 年の松山大会に続いて、多岐にわたる研究・保全プロジェクトや個人研究等から得られた新たな生態学的な知見について情報共有を行う。 学識者同士の議論を継続して重ねることで、学識者相互の理解が進み、共同研究なども展開されてきた。単なるネットワークを超えたコミュニティが構築されてきている。 2007年に設置された科学委員会のメンバーのほとんどがこのコミュニティのメンバーであったことから、世界遺産に向けた課題や対策の方向性が共有され、事前に様々な共同研究が進められていたことから、「生態系保全アクションプラン」のスムーズな策定が可能であったといえよう。 奄美・琉球の構成資産のひとつとなる奄美群島では、国立公園指定に向けた取組が進められており、新たな国立公園として生態系管理型国立公園と環境文化型国立公園を打ち出している。具体的にどのような管理を行っていくのか、今後の大きな課題である。多岐にわたる分野の学識者が共同で研究を行いコミュ二ティの構築が求められる。 本調査を通じて、「奄美・琉球」に関わる学識者を把握し、ネットワークが出来つつある。今後は主要な学会(生態学会、植物学会、沖縄生物学会等)において「奄美・琉球」に関するシンポジウムや集会を企画し、学識者同士の相互理解、問題意識の共有を進めるとともに、共同研究に発展させていくことが求められる。 ② 科学委員会と地域を双方向でつなぐ地域密着型の研究機関の必要性 生態学会での自由集会への参加と小笠原諸島関係者へのヒアリングで浮かび上がってきたのは、現地で活動しつつ、科学委員会と地域を双方向でつなぐ地域密着型の研究機関の重要性である。小笠原諸島では特定非営利活動法人小笠原自然文化研究所が

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る