- 17 - 2.屋久島・小笠原諸島等の島しょ型世界自然遺産から学ぶこと 1)小笠原諸島におけるネットワークの構築と世界自然遺産へのプロセス 「奄美・琉球」の世界遺産に向けた取組について考える際に、2011年に世界自然遺産に登録された小笠原諸島から学ぶことがいくつかあるが、ここでは学識者コミュニティの構築と、科学委員会と地域を双方向でつなぐ地域密着型の研究機関の必要性、現場の状況に応じた事業の柔軟な対応の必要性について述べる。 ① 学識者コミュニティの構築 世界遺産登録にあたって小笠原諸島では外来種対策が大きな課題であった。本来は当該地域には生育・生息しない外来種であるが、時間が経つにつれ生態系に組み込まれて生態系の一部を構成する。在来種に及ぼす影響が大きいことから、これを排除することが求められるが、その後の生態系の変化は予測が難しい。例えば、ヤギの駆除によって外来植物が繁茂することも予測され、駆除後の管理をどのように行っていくのかも大きな課題である。また、クマネズミは、海鳥、固有植物、陸産貝類などに食害を及ぼしているが、環境省版レッドリストで危惧IB類(EN)に指定されているオガサワラノスリの餌ともなっている。クマネズミの排除がオガサワラノスリにどのような影響を与えるのかを予測してモニタリングをしていくことが求められる。 このように、生態系に人為を加える際には、種間の相互作用を踏まえた生態系管理を行っていくことが必要であり、そのためには多岐の分野にわたる学識者が十分に議論を行いつつ、連携して調査研究やモニタリングを行っていくことが重要である。 小笠原諸島においては、首都大学東京の小笠原研究委員会(以下「研究委員会」)が中心となって学識者ネットワークを構築してきたが、特筆すべきは世界遺産の候補地となり、自然再生事業が開始された直後の2004年8月の日本生態学会において自由集会を行い、学識者の分野横断的な連携の必要性を議論していることである。 第 51 回 日本生態学会大会 (JES51) 2004年8 月 26 日 (木) 18:00-20:30 自由集会 「小笠原諸島の自然再生と利用に研究者はどう関われるのか?」 小笠原では、兄島から始まった一連の飛行場計画が白紙に戻されたあと、公共事業の方向が一転し、小笠原の自然環境の保全と復元を目指して、様々な事業主体(関連省庁、東京都、NGO)によって保全事業が近年急速に進められている。この変化は、世界自然遺産候補地・自然再生事業の対象地(環境省)やエコツーリズム推進地(東京都・小笠原村)として取り上げられたことで、調査研究を含めた保全活動が新たな公共事業として成り立っていることが大きい。しかし、各事業主体による保全事業の計画や利用ルール作りがほとんど連携・公開されず、現地では様々な問題を生みだしている。このような現状で、小笠原研究者は、自身の研究テーマに沿って個別に関わりを持っているが、今後は分野横断的な検討を念頭に置きながら、研究者間の連携を強めて各事業に関わりを持つ必要性が生じている。この集会において、まず今後の連携を図るための論議と、最新情報の共有および問題点の整理を行いたい。
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