82 3)モニタリング体制の構築 生物多様性を適切に保全していくために「順応的管理」が求められる。「順応的管理」とは、生態系の構造と機能を維持できる範囲内で自然資源の管理や利用をおこなうために、変化の予測やモニタリングを実施し、管理や利用方法の柔軟な見直しを行う管理手法である。その際に重要なのでモニタリングである。 モニタリングの項目については、科学委員会を中心に議論されることになるが、既に研究サイトとして知見が集積する場所をモニタリングサイトとして位置付けることが効果的である。また、大学と連携して学生によって継続的に調査研究が行われるのが望ましい。 継続的に調査研究を行うためには拠点施設が不可欠である。西表島とやんばるには、琉球大学が調査拠点を有していることから、奄美には鹿児島大学が拠点施設を有することが期待される。大学単独での設置が難しい場合には、鹿児島県や関係市町村と共同で設置・運営することも検討すべきである。拠点施設ができれば、首都大学東京の小笠原研究施設のように、出版物を刊行し、知見を集積していくことが期待できる。 奄美大島においては、「マングースバスターズ」がマングースの防除のみならず、希少種の情報収集に大きな成果を上げている。マングースの個体密度は大幅に減少しているが、根絶に向けては今後さらに時間を要すると想定される。外来種の防除は根絶に至らなければ、防除前の状態に戻ると予想される。このため、マングースの根絶に向けた防除に加え、希少種など奄美の生物多様性のモニタリングの役割を担う組織として継続していくことが望ましい。 5.琉球弧の生物多様性保全に世界遺産を活用する際の注意点 いうまでもなく、世界遺産は琉球諸島の世界的に価値のある生物多様性を、地域とともに保全し、活用していくための手段であって、目的ではない。 また、琉球諸島の顕著な普遍的価値は、各島嶼に存在する価値の総体で構成されるものである。このため、推薦書における価値の陳述に際しては、顕著な普遍的の支持的根拠として多くの島嶼や生物種についても説明することが必要である。なお、完全性の条件を満たす地域を抽出して推薦区域とすることになるが、その他の地域も顕著な普遍的価値を証明する支持的根拠として不可欠な存在であり、世界遺産に関連する地域として、県や市町村レベルでの保護を図り、世界遺産と共生する地域社会づくりを行うことが必要である。
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