平成23年度「琉球弧の世界自然遺産登録に向けた科学的知見に基づく管理体制の構築に向けた検討業務」報告
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81 「琉球諸島」が位置する鹿児島県と沖縄県を拠点とする両大学においてネットワークを構築し、継続的な意見交換を行っていくことが望まれる。 また、鹿児島大学では、主に鹿児島県内の理科(生物)教員、鹿児島大学教員・学生、鹿児島県の生物多様性に関心のある人を対象とした「生物系教員等ネットワーク(shikagaku)」が構築されている。このネットワークとの有機的な連携も期待される。 加えて、琉球諸島の生物多様性の特徴と価値について、国内外、そして地域に分かりやすく示し、保全意識を向上させることも研究者の果たすべき役割であろう。構築されたネットワークの成果として、琉球諸島の生物多様性をまとめた書籍等の作成も検討されてよい。 2)研究者による委員会の設置 科学委員会は、琉球弧の生物多様性に関する情報を把握して集積すると同時に、これを保全するために、科学的知見からの具体的提言を行う役割が期待される。琉球弧の生物多様性保全上の課題としては、森林生態系の保全と森林施業の両立、外来種対策など保護管理上の対策、適正な観光のあり方などが想定される。これらの議論が、推薦書及び管理計画の作成につながることとなる。 「連続性のある資産」での推薦が想定される琉球弧は、個々の構成要素の管理を連携して行うための管理体制・メカニズムが不可欠であり、登録推薦書に明記することが求められる(作業指針114条)。 地域連絡会議については、ボトムアップの観点から奄美・やんばる・西表の各地域に設置し、さらに地域間の連絡会議を設けることが想定される。 逆に科学委員会については、琉球諸島全体の顕著な普遍的価値や保全の方向性を議論する観点から全体でひとつとし、個別地域の課題に対する助言については地域別のWGを設けて対応するのが適当であろう。 科学委員会の人選については、「琉球諸島」に関する知見を有し、地理的に距離が近く、継続的に調査研究をされている方が望ましい。また、1)で構築されたネットワークからピックアップが出来れば幅広い知見の集積が期待できる。 琉球弧の自然は人が関与しつつも残されてきたものであるため、奄美ややんばるにおいては世界遺産の価値を証明するアマミノクロウサギやヤンバルクイナの保護と森林施業をどのように両立するかが大きな課題である。また、リュウキュウマツ林の再生も課題であろう。保護管理方策の議論に当たってはこの分野の専門家が不可欠である。 さらに、琉球弧は独特の文化と歴史を有しており、歴史、自然観、宗教、祭祀など社会科学の分野の研究者が必要である。加えて、今後の地域の有り方を検討する場合には観光分野も必要と思われる。

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