平成23年度「琉球弧の世界自然遺産登録に向けた科学的知見に基づく管理体制の構築に向けた検討業務」報告
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79 8)首都大学東京の果たした役割 小笠原諸島の科学委員会のベースとなっているのが首都大学東京の小笠原研究委員会(以下「研究委員会」)と研究委員会のメンバーを中心とする研究者ネットワークである。 首都大学東京は、小笠原諸島に研究施設(小笠原研究施設)をもつ唯一の大学として、都立大時代を含め40年近い小笠原研究の実績を持っている。研究員会は、昭和51(1976)年度に設置され、人文社会系、法学系、経営学系、理工学系、都市環境、福祉などの多様な分野の研究者で構成されており、小笠原研究施設を拠点として、自然系の研究だけでなく、人文社会系の研究も活発に実施している。 研究委員会は、「小笠原研究年報」と「Ogasawara Research(小笠原研究)」の2種類の出版物を刊行している。「小笠原研究年報」は様々な分野・機関での研究の交流と、首都大学東京の小笠原研究成果などに関する情報を広く一般に提供することを目的として刊行されている。「Ogasawara Research(小笠原研究)」は原則として1論文1冊として主に英文の研究論文や総説を刊行している。これらの出版物は小笠原研究施設を運営することを通じて取りまとめられている。首都大学東京小笠原研究施設使用要綱の第13 条には「小笠原施設においてなされた研究の成果は、小笠原施設の研究業績として登録されるものとする。」とされている。 これらの実績を背景に、小笠原の世界遺産登録にむけた自然再生、外来種対策、エコツーリズム振興などの施策にあたりシンクタンク機能をはたし、首都大学東京の多くの教員・研究者が国(環境省)、東京都(環境局)などの専門委員会のメンバーとして活動している。 また、小笠原諸島を対象とする調査研究が多く行われるようになり、調査研究が環境を損なうことを、研究者自らが懸念するようになった。自ら専門とする分野には配慮しているつもりであっても、他の分野から見れば環境に悪影響を及ぼしていることもあった。このような危機感から、小笠原諸島を対象とする研究者のネットワークが構築され、相互チェックと情報交換がなされるようになった。 科学委員会は建設的な議論の場という性質から、構成人数を制限せざるを得ない。このため、委員ではカバーできない専門分野や課題が生じることになるが、研究委員会と研究者のネットワークがあったことで多くの研究者のフォローを得ることが可能であった。また、このネットワークは、科学的な知見や保全策に対する提言の集約に加え、関係機関が行う施策に関する情報の伝達や施策に対する意見の集約の機能をも果たした。

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