68 3年間の事業は、地域に埋もれた文化財の発掘も含めて、だれもが文化財を身近に感じ、その価値が理解できる方法として「奄美遺産」構想を打ち出した。また、事業終了後も、「奄美遺産」の保存・活用の推進を奄美群島全体で実現していく仕組みとして、「奄美遺産」の登録・認定制度を含むモデル構想の枠組みにも言及し、提案している。そして、残された課題は、次のように整理している。 ①奄美群島全体の広域文化財行政を担う体制・仕組みづくり ②市町村遺産リスト・奄美遺産データ―ベースの整備・活用 ③「奄美遺産」の登録・認定システムの確立と適切な運用 「奄美遺産」に向けた取り組みは、途についたばかりであるがその意義は大きい。そもそも文化庁が募集した本事業は、地域に埋もれた文化財が、その価値を見出されないまま急速に失われていくことに危機感を覚えるところから始まっている。危機の背景には、様々な社会的要因があるにしろ、これまでの文化財行政のあり方が、結果として文化財理解に求められる高い専門性と一般市民の認識との間にかい離を生み出してきた側面が少なからずあるのだろう。また、地域の振興を妨げるような印象を与えてきた文化財の保護概念についても、積極的な活用を促すことで、むしろプラスのイメージを醸成しようとしている。 今回実施された事業は、文化財にかかわる既成概念を大胆に取り払い、地域の主体性を最大限に伸ばす方向で構想されている。際立っている特徴は、文化財の価値の「わかりやすさ」や、保存・活用を含む「使いやすさ」を担保する方法として、全体のつながりを見せる方向にすべてが集約されていることである。具体的には、特定の文化財とその周辺の環境を一体として捉えていく考え方や、島民が大切にしたいと感じる対象から、奄美固有の文化的資源につなげていく手法などに現れている。人の認識を高めるうえで、相互の関連性がわかることは極めて大事なことである。 そして、今回文化財行政(文化庁)が取り組もうとした課題は、恐らく自然保護行政とも通ずるものがあるだろう。文章の中で「文化財」とある部分を、たとえば「生物多様性」や「絶滅危惧種」といった自然保護用語と入れ替えてみるとわかりやすい。幸い、今回の文化財類型調査で収集した情報の多くは、奄美の自然と生業の関係を伝え、奄美の暮らしの隅々に生きている自然と共生する文化の具体的な姿を描き出している。「環境文化型国立公園」像を具体的構想していくうえで、多くの素材を提供している。 また、当事業の平成20年度報告書には、「自然的な遺産のうち、専ら自然科学的視点から評価される要素については、別途、本業務と並行して進められている国立公園及び世界自然遺産の関連調査・検討に委ねる」と記されている。自然と文化を切り口にした二つの動きは、「生態系型国立公園」と「環境文化型国立公園」像を豊かにするために不可欠な要素で、車の両輪として理解しておく必要がある。
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