67 第4章 人文社会に関する情報 1.環境文化型国立公園と奄美遺産 奄美地域の国立公園指定に向けて掲げる二つの理念、すなわち、「生態系管理型国立公園」と「環境文化型国立公園」のうち、後者の「環境文化型国立公園」の考え方を今後定着させていくうえで、奄美地域で平成20年度にスタートした「奄美遺産」の取り組みと積極的に連携、活用していくことが肝要である。 「奄美遺産」とは、平成20年度から3年間実施された「文化財総合的把握モデル事業」(文化庁)の選定を受けた、宇検村、伊仙町、奄美市が、広域市町村圏として共同で取り組んだ成果として生まれた、永続的な運動として文化財の把握・保存・活用を奄美群島全域で進めていくための枠組みを総称する。 本事業は、従来のトップダウン型の文化財行政(文化庁が文化財の類型や指定の水準を決め、文化財のヒエラルキーを定める考え方)とは異なる、文化財の保存・活用方策を求める文化庁の方針(文化審議会文化財分科会企画調査報告書 平成19年10月)を受けて、地域にとって大事なものを地域の力で守り、活用していくために、従来の文化財類型(対象範囲と分類法)に縛られず、文化財を幅広く捉えていくことを求めている。 奄美地域では、島民が「敬い、守り、伝え、残したい」と思っているものと、一定時間の間に渡って「受け継がれてきたもの」を文化財の抽出基準に定め、遺跡や自然物など実体ある要素以外にも、生産・採集や遊びなどの空間的要素も含めて文化財を捉えていく方向性を打ち出した。また、既往の「文化財」分類への適応が馴染みにくい文化財未満の文化財も含めるために、新たに「市町村遺産」という名称で文化財を表現することを決めている。 3市町村は「市町村遺産」、もしくは、文化財とその周辺環境を含む(関連文化財群)情報収集とリスト化のために、地域住民へのヒアリングや現地踏査による「集落悉皆調査」と資料調査中心の「分類・要素別調査」を実施、集められた地域の資産は3年間で9千件に上る。得られた情報は、将来的に奄美群島全域の総合データ―ベースとして整備・活用していくことを視野に、共通フォーマットを作成し、市町村遺産リストや個票のかたちでまとめられた。 一方、市町村遺産の中からさらに、奄美の固有性・普遍性等を特徴づけていけるように、①奄美特有の「歴史遺産」、②人と自然の濃密な関係を有する「生活遺産」、③特徴的な空間構造・認識・年中行事などを継承している「集落遺産」の三つを重点テーマとして抽出している。重点テーマにはそれぞれ、たとえば「シマンチュの精神を伝える『ケンムン』伝承」や「自然に寄り添い、支えられたシマの行事」など具体的な「ストーリー」を設定し、そのストーリーを構成するうえで重要な遺産を、奄美の歴史文化を象徴する「奄美遺産(関連文化財群)」に選定する手順モデルを提示した。
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