63 (2)化石による古生物学的研究の動向 琉球弧は琉球石灰岩の洞窟の堆積物に化石が良く保存されている。これはこの地域の特徴である。これまでに100カ所を超える場所で化石が発掘されているが、その大部分は更新世中期~後期の地層から発見されており、種類はゾウ、シカ、キョン、イノシシ、ヤマネコ、ネズミ、トリ、ヘビ、カメ、カエルなどである(大城,2003)。これらの種の多くが、更新世中期~後期に渡来したと推定され、更新世における陸橋の存在を示唆するひとつの説明資料とされてきた。 一方、近年の調査により、沖縄本島において前期更新世(約170万年~約130万年前)の地層から、シカ、キョン、イノシシ、アマミノクロウサギ、トゲネズミ、ハブ、カメ、カエルなどの化石が発見され、中琉球に現存する主要な固有属種の祖先種と考えられる種が含まれていた(小澤,2009)。これにより、中琉球の前期更新世、中期更新世、後期更新世の脊椎動物化石群の変遷が明らかになり、現在の中琉球を中心とした固有性の高い動物相は、多様性に富む前期更新世の動物群が島弧の環境変動により数度の絶滅事変(約130万年、約40万年、約2万年)経て次第に多様性を失過程で、生き残ることができた比較的少数の種から成り立っていることが示唆された(小澤,2009)。 以上のように、化石は琉球弧の地史と生物の関係を説明するとき重要な資料となるが、化石が発見される地層が限定されている場合には取扱いに注意が必要である。このため、琉球弧の地史と生物の関係については現生生物でストーリーを組んで、化石は今後の研究材料として扱った方が良いと考えられる。 今後、九州・沖縄地方の古脊椎動物相を台湾や中国大陸との脊椎動物相と比較することにより、新生代の東アジアから「琉球諸島」を含む日本列島の生物地理区がどのように変化し、現在のようになったかをより詳細に明らかにすることが期待される(仲谷,2011)。これは「琉球諸島」の特徴であり、世界遺産に推薦する際にもひとつのアピールとなると考えられる。その意味から、各地で発掘された化石については、市町村の教育委員会が管理しているが、資料館で埋もれているものも多いため、リスト化が重要となる(仲谷私信,2011)。
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