平成23年度「琉球弧の世界自然遺産登録に向けた科学的知見に基づく管理体制の構築に向けた検討業務」報告
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54 琉球列島の生物相は、トカラ海峡の南北で大きく異なることが知られており、渡瀬線と呼ばれている。これは、気候の違いに加えて、トカラ海峡が陸生生物の分散を妨げてきたことを反映している。例えば、ハブ類はトカラ海峡の南側まで分布しているが、北側には全く分布していない(戸田ら、2003)。 また、沖縄諸島と宮古諸島の間にも陸生生物の分散を妨げるような地理的隔離が存在していることが示唆されている。既に述べたように爬虫類と両生類では、琉球諸島の固有種で、中琉球と南琉球の両方に分布する種はほとんど見られない。 遺存固有種と考えられているのが、動物では、アマミノクロウサギ、ケナガネズミ、アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミ、オキナワトゲネズミ、リュウキュウヤマガメ、クロイワトカゲモドキ、キクザトサワヘビ、イボイモリ、ナミエガエル、ホルストガエル、オットンガエル、イシカワガエル、アマミイシカワガエルなどで、植物では、落葉樹のアマミカジカエデ、ホソバハマセンダン、中国南部に近縁種が生育するアマミテンナンショウ、オキナワテンナンショウなどである。遺存固有種の多くは中琉球に分布している。 一方、南琉球は台湾や大陸との共通種が多く、固有種も亜種レベルの分化である。 例えば、イリオモテヤマネコ(=ベンガルヤマネコ)、ヤエヤマセマルハコガメ(=タイワンセマルハコガメ)、サキシマスジオ(=タイワンスジオ)、サキシマスベトカゲ(=タイワンスベトカゲ)などである。これの存在は、台湾と八重山・宮古列島間に陸橋があったときに動物相の移動があったことを示している。その後の島嶼化によって種分化が起こり、少なくとも亜種として区別されるほどの違いが認められるようになった。 以上の点から、中琉球と南琉球では大陸との隔離期間に大きな差があると考えられている。しかしながら、その隔離の時期や程度については統一見解が得られていない。 今後、現生生物の分子系統学的研究、化石による古生物学的研究、地学的研究の各アプローチから、近年の研究成果を踏まえて琉球弧の地史と生物の関係を説明していくことが求められる。統一的な見解を得るには、まだまだ時間を要するとか考えられるが、推薦書の作成にあたっては、大陸島における生物の進化を解き明かすための研究材料が琉球弧に多く存在しており、研究の場として保全していくことの重要性を訴えることが必要であろう。

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