平成23年度「琉球弧の世界自然遺産登録に向けた科学的知見に基づく管理体制の構築に向けた検討業務」報告
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48 両側回遊種が多いテナガエビ類やヌマエビ類では多くの種が南西諸島に広く分布している。これらの種が、黒潮によりその幼生を移送している結果と考える事が出来る。それでもテナガエビ(両側回遊種)やミナミヌマエビ(純淡水種)が九州島より以南に分布しない事、ツブテナガエビ、スベスベテナガエビ、オオテナガエビなどが大隅諸島の種子島、屋久島、口永良部島以南に分布する事、およびヒラアシテナガエビ、ネッタイテナガエビ、ウリガーテナガエビ、カスリテナガエビや、ミナミオニヌマエビ、リュウグウヒメエビ、ナガツノヌマエビ、マングローブヌマエビなどが沖縄諸島、宮古列島、八重山列島以南に分布することから、大隅海峡やトカラ海峡(三宅ラインや渡瀬ライン)が分布の境界になっている事がうかがえる(鈴木私信,2011)。 純淡水種のコツノヌマエビ(石垣島・西表島固有種)、イシガキヌマエビ(石垣島固有種)、イリオモテヌマエビ(西表島固有種)、ショキタテナガエビ(西表島固有種)が八重山列島に分布しているが、中琉球、北琉球には分布していない。諸喜田(2002)は大陸で河川陸封コエビ類が成立し、陸橋成立時に大陸と南琉球の河川とが同じ水系で連結され、移動・分散したと推定している。 サキシマヌマエビ、アシナガヌマエビ、チカヌマエビ、ドウクツヌマエビなどが隆起礁原の島に点在していたり、固有であったりする事は、隆起礁原起源の島が持つ地下水系や湧水とこれらの種の生息との密接な関係を暗示している(鈴木私信,2011)。 ②淡水産カニ類 純淡水種であるサワガニでは、分布の地域性はより明瞭である。サワガニ属は奄美諸島・沖縄諸島を中心とした地域に種類が多く特産種も多い。これらに対し、北部の大隅諸島・吐噶喇列島、南部の宮古列島・八重山列島との共通種が分布していないのは、おそらく早い地質年代に大陸あるいは両地域と分離孤立したことがうかがえる(鈴木私信,2011)。 mtDNA解析においても、現存のサワガニ属の種は大陸で分化した後に「琉球諸島」に分布を拡大してきたのではなく、「琉球諸島」の形成、つまり陸塊化・陸橋化・分断に伴って分化したことが示唆されている(瀬川,2011)。「琉球諸島」のサワガニ属は琉球と台湾や中国大陸との古環境を考察するのに重要な動物である。

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