平成23年度「琉球弧の世界自然遺産登録に向けた科学的知見に基づく管理体制の構築に向けた検討業務」報告
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45 (6)陸産・淡水産・汽水産貝類 アジアの東縁に位置する日本列島は、北海道から九州まで南北約2,000kmにのび、さらに小笠原諸島、琉球列島を含む。国土面積は狭いながらも、南北に細長い国土のため気候の変化に富み、地理的隔離をもたらす山地や島嶼が多く、多様な生息環境を保持している。種類数はそう多くないが、これらの環境により、特異な陸・淡水産貝類相を形成している。また列島の生い立ちと関係が深い種類が目立つ点が、日本の貝類相の特徴である(環境省,2005)。 種・亜種の解釈は、研究者によって見解の相違があって多少違う場合があるが、環境庁編(1998)の「日本産野生生物目録(無脊椎動物編Ⅲ)」によると、日本産の陸産貝類は732種・亜種、淡水産貝類は177種・亜種(汽水産を含む)であり、その内の陸産貝類は大半が日本固有種である。 日本固有種が多い理由として二点考えられる。一点は、複雑な地形と多くの島嶼群の存在によって地理的隔離がもたらされたためであり、もう一点は、貝類の重要な生息地である石灰岩地帯が、全国各地に点在しているためである。これらの制約の下、地域ごとに種分化が進んだ結果、諸系統の種群が複雑に混在する生物地理学的に特異な貝類相が発達した(環境省,2005)。 これらわが国の陸産貝類相は、南方系分布型、北方系分布型、小笠原諸島分布型に大別される(環境省,2005)。 「琉球諸島」は南方系分布型で、さらに東南アジア系と華南系に大別される。東南アジア系(ラッパガイ、ヤエヤマクチミゾガイなど)は、琉球列島南部に分布を拡大した。華南系は、琉球列島がかつて大陸と陸続きであった頃、華南や台湾から侵入してきたであろう種類が琉球列島の各島で種分化し、遺存的に出現した種である。ニッポンマイマイ類、ビロウドマイマイ類のナンバンマイマイ科、オオベソマイマイ類、キセルガイ科などがあり、日本固有の種群を形成している(環境省,2005)。 本業務において、鹿児島県域島嶼部の陸産・淡水産・汽水産貝類のリストを作成した(冨山,2012:参考資料2)。 陸産貝類は地上匍匐を主要な移動手段とするため、他の動物群に較べ移動能力が低く、また、湿潤なある程度安定した環境でなければ恒常的な繁殖が出来ず、集団を維持することは出来ない。このため、分布が不連続な場合が多く、集団間の個体のやりとりとそれに伴う遺伝子交流は極端に低くなり、局所的な分化の例が多く見られる(鹿児島県,2003)。 特に島においてはそれが著しく、今回リストを作成した宇治群島、草垣群島、三島、大隅諸島、トカラ列島、奄美諸島で364種が確認されている。 このうち、奄美諸島には226種が確認されており、全国の確認種数の約25%であ

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