平成23年度「琉球弧の世界自然遺産登録に向けた科学的知見に基づく管理体制の構築に向けた検討業務」報告
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30 分岐年代はトゲネズミに比べて新しいと推定されている(Suzuki et al.,2000)。 森林への依存が強く、目撃例は奄美大島では1980年以降は島の中央部に、徳之島では北部と中央部に限定されている。 ケナガネズミとトゲネズミは、系統は違うが、生き残っている場所は同じであることから、DNAの調査を行って両種を比較することで、各島嶼の成り立ちと、種の進入・定着の関係について何かしらの示唆を与える可能性があり、今後の研究課題となっている(山田私信,2011)。 保護上の課題としては、ジャワマングース(Herpestes javanicus)(以下、「マングース」)やノイヌ、ノネコによる本種の捕食、森林の減少などのよって個体群密度の減少が危惧されている。 ④イリオモテヤマネコ(Prionailurus bengalensis iriomotensis) ユーラシア東部から南アジアに分布するベンガルヤマネコの西表島固有亜種。近縁のネコ科が生息する海外の島嶼と比較しても西表島は極端に小さく(289km2)(今泉,1994)、本来は中型食肉目が生息できるサイズの島とは考えられない。また世界の同サイズのネコ科の多くは小型哺乳類を主な餌としているが(渡辺・伊澤,2003)、西表島には小型哺乳類が在来分布していない。 イリオモテヤマネコは在来のオオコウモリの他、外来種のクマネズミも餌としているが、そのほか鳥類・爬虫類・両生類・昆虫類・甲殻類といった分類群の動物を餌としており、ネコ科の他種と比較すると食性の幅が著しく広いことが特徴的である(渡辺・伊澤、2003)。また、島の中でも小動物が豊富で多様性が高いと考えられる沿岸の低地部で密度が高いことが知られ(Sakaguchi,1994;渡辺ほか,2002)、大きな河を泳ぐ姿が目撃されるなど、水に入ることを嫌がらないのもネコ科としては珍しい(伊澤,2005)。 個体群が小規模(1994 年に99~110 頭と推定)である上に、近年、定住個体数(とくに雌)、目撃件数などの減少傾向が認められており、環境省版レッドリストではCR と評価されている。保護上の課題としては、海岸部における土地利用改変、道路建設、交通事故、外来種などが考えられている。また、近年はガイドツアー増加により、これまでに人がほとんど入らなかったところに人が入るようになり、ヤマネコの生息環境に影響を及ぼすことが懸念されている。 今後の研究課題としては、山地部の個体群の把握が挙げられる。これまでのところ低地部の密度が高いとされているがどれほど密度の差があるのか、山地部と低地部の移動はあるのか、どのような環境が使われているか、全島での個体数など、今後の保全を考える上で必要な情報が不足している。

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