平成23年度「琉球弧の世界自然遺産登録に向けた科学的知見に基づく管理体制の構築に向けた検討業務」報告
34/87

29 と更新世中期(約40万年前)の地層からアマミノクロウサギ属(Pentalagus)の化石が発見された(小澤,2009)。 アマミノクロウサギはその起源とともにウサギ科の進化を解明するために学術的に極めて貴重な存在である。 1990年代前半の生息個体数は、奄美大島においては2,600頭から6,200頭、徳之島においては120頭から290頭と推測されていたが、開発行為による森林の減少並びに外来種の侵入等による影響によって生息に適した場所が失われたこと等により、各島内における分布域が更に狭まり、2003年の生息個体数は、奄美大島においては2,000頭から4,800頭、徳之島においては200頭前後と推定されている。また、生息地の分断が進み、地理的に隔離された一部の個体群は低密度になっており、これらの生息地では、地域的な絶滅の危険性が非常に高いと考えられる。 ②トゲネズミ トゲネズミ属Tokudaiaは我が国の固有属で、1属3種で構成され、沖縄島にオキナワトゲネズミ(T.muenninki)、奄美大島にアマミトゲネズミ(T.osimensis)、徳之島にトクノシマトゲネズミ(T.tokunoshimensisi)がそれぞれ生息している。 オキナワトゲネズミは一般的な哺乳類と同様にXX/XY型の性染色体を持つが、アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミはY染色体を持たず、オスもメスもX染色体1本のみのX0/X0型で、染色体数は奇数となっていることが知られている(土屋ら,1989)。さらにY染色体をもたないトゲネズミの2種は性を決定する遺伝子も消失していることが分かっている(Suitou et al., 2001)。一方、なぜオスが出来るのかというメカニズムはこれからの研究課題となっている(黒岩,2009)。 トゲネズミの進化は特徴的で、哺乳類でも特異的であることから、3種をしっかり残すことが重要である。オキナワトゲネズミは、近年生息情報がなく、絶滅が危惧されていたが、2008年3月に再発見された(山田・河内,2009)。しかしながら、個体数は数百頭しかいないと想定されている(山田私信,2012)。アマミトゲもマングースの捕獲罠により年間1800頭が捕獲されているが、再捕獲が多く、実質500頭ぐらいしかいないと推定されている(山田私信,2012)。 ③ケナガネズミ(Diplothrix legata) ケナガネズミは沖縄島、奄美大島、徳之島の森林部に生息している。非常に大型のネズミで、全長は50cmを超え、日本産のネズミ科では最大である。近縁種はスラウェシ島に分布するネズミであるという説と、クマネズミ属Rattusに近いという説があるが分類学的に未確定であり、今後の学術的研究の必要性が高い(環境省,2002)。 分子系統学的解析によって、ケナガネズミはRattus属から分岐しており、その

元のページ  ../index.html#34

このブックを見る