平成23年度「琉球弧の世界自然遺産登録に向けた科学的知見に基づく管理体制の構築に向けた検討業務」報告
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19 1)植物 (1)植物相 ア.特徴 琉球弧は、温帯では他地域に比べて非常に高い生物多様性を持つことで知られている東アジア植物区系という植物地理学的まとまりの中に含まれている(大橋,2000)。また、琉球弧を含むアジア東部は、熱帯から亜寒帯まで連続的に森林植生を観察することが出来る唯一の場所である(吉良,2001) 琉球弧の植物相については、平成17年度報告書に概略が整理されており、その特徴は①種類数の豊かな植物相、②温帯と亜熱帯の両方の特徴をもつ、③固有種・遺存固有種4が多い、とされている。 以上の特徴は、多様な起源を持つ種が、多様な年代に侵入し、島ごとに隔離されて生じたものと推定される。 琉球弧の植物相の由来として、①中国大陸要素、②台湾から北上したと思われるもの、③日本内地から南下したもの、④マレーシアから侵入したもの、⑤オーストラリア方面から侵入したと考えられるもの、⑥太平洋方面から侵入したと思われるもの6つが考えられている(初島,1980)。また、山地では中国大陸や日本本土と最も深い関係があるが、その林床や低地部、海岸の植物相は熱帯アジアと深いつながりがあるとされている(立石,1998)。 琉球諸島の植物相の特徴を推薦書に記述する際には、近年の分子系統学的研究の成果を踏まえつつ、植物相の起源、侵入と隔離のプロセスなどを明らかにすることが望まれる。 また、琉球弧は生物地理区の移行帯で、かつ弧状列島の一部であることから、漸進的な系統進化が多く見られ、島ごとに形態が少しは異なるが、明瞭に区分しにくい分類群がある。このため、分類学的な位置に諸説あり、種数、亜種数、変種数の集計が難しい。この意味からも、分類学的、進化系統学的な調査研究が必要である。 イ.分子系統学的研究事例 琉球弧は更新世の氷期・間氷期における海進・後退に伴って、陸橋の形成と島嶼間の分断を繰り返したとされており、同時に植物も分布域拡大と島内への隔離を繰り返したものと考えられる(瀬戸口,2001)。植物の分子レベルでの研究事例はまだ多くはないが、これまでに次の研究が行われている(瀬戸口,2001)。 4かつて広く範囲に分布した種が、多くの地域で多種との競争や環境変化で絶滅した後も、他の地域から隔離された場所で生き残って固有種となったものを遺存固有種という。

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