88 <参考資料>「徳之島の植物」 鹿児島大学大学院理工学研究科 准教授 宮本旪子 1.生物圏 東アジアの照葉樹林は,亜熱帯・暖温帯多雤林という生物圏カテゴリーに含まれる。西端のヒマラヤ山脈南斜面から中国の長江流域を経て,日本の本州の北緯39度付近に至る地域は,年間を通じて温暖で,十分な雤量があり,常緑樹林が形成されている。熱帯と異なるのは季節が明瞭であることだが,この林に生育する木生シダ,タケ類,タブノキ類などは熱帯起源の分類群であると考えられる。第三紀中頃の森に類似した植生が温暖で湿潤な地域に残存しているという考え方もある(Folch et al. 1997)。徳之島を含む琉球列島は熱帯の北限域といえる(大澤 1991)。亜熱帯の海洋性気候でもある,東アジアの亜熱帯・暖温帯多雤林ベルトの中で,東西をつなぐ飛び石となる位置にある。徳之島がある北緯27度という位置は,世界的に見ると熱帯環境と亜熱帯環境の境界付近にあたる。台湾では低地の熱帯環境にフタバガキ林が見られる。屋久島では1000m付近から上部は針葉樹林となり,垂直分布が観察できる。奄美群島では,森林のタイプが増え,種の多様性も高くなる(田川&宮城 1991)。徳之島では,低地は台湾のような熱帯環境でなく,最高地点の井之川岳山頂は645mであって屋久島高地のような温帯環境には届かない。したがって全島が亜熱帯・暖温帯多雤林(照葉樹林)に相当する。 奄美群島以南の琉球列島は暖かさの指数が180—240°・月の範囲内にあり,亜熱帯林とみなすことができる(佐藤 2009)。徳之島の総面積24777haのうち45%が森林や草地であって,そのおよそ1/3が山地の自然林であるが均質ではない。徳之島の北部と中央の山地は古生代の粘板岩,砂岩,花崗岩層で,最高峰の井之川岳付近の東部山地は修正代の輝緑岩層であるが,南部の段丘は新生代更新世琉球層群である。中央山地は酸性土壌であるが,低平地は弱塩基性の隆起珊瑚礁石灰岩地となっている(手田ほか 2010)。おおまかには,徳之島北部の天城岳と南部の犬田布岳から井之川岳周辺には,樹高25mに達する自然度の高いシイカシ林が形成され,そこは天然記念物であるアマミノクロウサギの为な生育地となっていると推定される。井之川岳山頂付近は雲霧帯的な条件下にあり,風衝作用も受けている。二次植生は为に伐採跡地に発達したスダジイやアマミアラカシの萌芽再生林,焼畑や造林により拡大したと考えられているリュウキュウマツ林である。外洋に面した斜面には潮風によって変形した風衝林やソテツが見られる。再外縁には砂浜よりも隆起珊瑚礁や基盤岩の崖地が多いが,クサトベラ,モンパノキ,アダン,イソマツ,モクビャッコウ,ソナレムグラ,コウライシバなどが生育している。
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