78 第4章 琉球弧世界自然遺産地域のあり方(地域づくり)の検討 琉球弧世界自然遺産登録の課題、保全及び地域づくりへの方向性については、これまでの章で、奄美、やんばる、既遺産地域と比較しつつ論じてきた。ここでは、奄美及びやんばるの共通性及び特性に配意しつつ、着目すべき2つの観点から記述し、あわせて施策、具体的手法についても検討することとする。 1.琉球弧の世界自然遺産としての保全及び地域づくりの方向性 1) 新しい国立公園 低山、亜熱帯常緑広葉樹林帯をまるごと国立公園として扱うのは、琉球諸島が初めてである。これまでの国立公園とは異なる指定、管理上の視点が必要である。これまでの環境省が行った委員会等での議論を踏まえ、「生態系管理型」「環境文化型」の2つの概念を保全、地域づくりの方向性とする。 ① 生態系管理型国立公園 琉球諸島は、RDB種など貴重生物が濃密に生育生息する地域であるが、両生類に代表されるようにその生息域は、小規模かつモザイク型の生態系単位が基礎となっている。これまでの国立公園地域地区指定より、はるかにきめの細かい保全管理が求められる。とりわけ小河川など水系域については繊細な取り扱いが必要となる。 また、シイカシが優先する森林は、再生産力がきわめて旺盛であり、おおむね30年程度で相観上は回復すると思われる。焼き畑の歴史や戦後のパルプ用伐採にも係わらず、現状の森林はリュウキュウマツからシイカシ林へ遷移の途上にあるる。こうした森林の再生産力を基礎とした伐採基準をどう考えるかが、国立公園基準設定上の課題である。 ② 環境文化型国立公園、保全 自然、森林の特性から、地域の人々と自然、森林との関わりは、本州等温帯林タイプとはかなり異なった濃密な関係となっている。基本的には生活生産上の利用が日常的になされ、低山ということもあって、森の聖域性はそれほど強くはない。こうした歴史的に見ても日常的な関与の濃厚な自然、森林を、その関係性を重視しつつ公園理念に積極的に活かしていこうとするのが「環境文化型」の为旨である。 地域との良好な関係を形成することが公園管理の基本であるから、その視点からも国立公園がこれを理念とすることの意味は大きい。 集落と一体となった森林の公園区域の指定、また、公園利用、施設整備においても、自然の歴史的利用について積極的に説明、展示するなどは、むしろ新しい公園利用形態につながると考えられる。
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