平成22年度「持続的な地域づくりに資する琉球弧の世界自然遺産登録に向けた課題と方策に関する検討業務」
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75 2) 琉球弧の世界自然遺産登録に向けて踏まえるべき視点 琉球弧が世界自然遺産を目指すにあったっては、1)で述べた良い変化についてはさらに効率良く活かし、悪しき変化については回避するための準備が必要である。 琉球弧の世界自然遺産登録に向けて踏まえるべき視点について、以下の4つをあげる。 ① 地域における十分な議論と準備 ② 科学的知見の集約、科学的知見に基づく議論 ③ 観光を産業に活かす地域づくり ④ ガイドツアー・エコツアーの準備検討 ① 地域における十分な議論と準備 1)で述べたように、十分な議論と準備が行われないまま世界自然遺産になった場合には、地域の理解が得られず管理運営が十分に行えない。また、世界遺産がもたらす効果を地域経済が十分に享受することは出来ない。このため、世界自然遺産の登録に向けては、その影響や効果を予測した上で、地域において世界遺産の制度、自然資源の保全と利用の方針、観光利用のルール、利用のルートと拠点の整備、地場産品の販売促進、新たな地場産品の開発などについて事前に十分に議論し、対策をとっておく必要がある。 特に、奄美群島とやんばる地域の照葉樹林は、古くから林業が営まれるなど地域住民の生活と関わりが深く、森林の保全や管理にあたっては、土地所有者や森林組合をはじめとする地域の知見や経験を活用していくことが重要である。 また、生活や産業のあり方の検討や自然再生・修復など、地域の協力なしには不可能であり、地域をはじめとする関係者が円滑に協働できる体制を整えること必要となる。知床における世界自然遺産登録に向けた準備、管理体制の構築が参考となろう。 ② 科学的知見の集約、科学的知見に基づく議論 世界自然遺産としての価値を証明するためには科学的知見が必要である。知床においては、知床博物館が科学的知見の集約に大きな役割を果たしている。 知床博物館は開拓時代の民具の収集や郷土史を調査していた在野の有志が設立を推進し、発足時から常勤学芸員を3〜4名配置するなど、1地方自治体としては異例の手厚い体制であった。市民講座の開講や、市民による鳥獣遺体の持ち込みを拒否しない姿勢など市民との接点を重視し、研究者の受入れや成果の還元に努め、郷土史だけでなく、考古、自然史系の知の集積所としての役割を担ってきた。知床動物研究グループなど研究者グループと連携して、知床

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