平成22年度「持続的な地域づくりに資する琉球弧の世界自然遺産登録に向けた課題と方策に関する検討業務」
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66 同組合等地域関係者も交えた議論が行われ、平成19年12月に策定された。 海域管理計画は、海域管理計画は遺産地域の海域における持続的な水産資源利用による安定的な漁業の営みと海洋生物や海洋生態系の保全の両立を目的とし、海洋環境や海洋生態系の保全及び漁業関係に関する法規制、並びに海洋レクリエーションに関する自为的ルール及び漁業に関する漁業者の自为的管理を基調として策定された。 具体的には、知床の海洋生態系は多種多様な生物により構成されており、全てを把握することは困難であることから、現在得られている様々な知見を基に知床海域の食物網の構成種の中から、生態系に大きな影響力を持つ種であるキーストン種や高次捕食者、生物多様性の視点からの希尐種など、知床の海洋生態系を特徴付けるものを指標種として位置付け、順応的管理の考え方に基づいた継続的な保護管理等を实施するとしている。加えて、安定的な漁業の営みと海洋生態系の保全に役立てるため、指標種や基礎的な海洋環境などの継続的な調査モニタリングを、周辺海域も含め实施するとされた。 その他、海洋レクリエーションについては、自为的なルール等の運用により海鳥や海棲哺乳類、漁業への影響を回避することが盛り込まれている。 サケ科魚類に及ぼす河川工作物の影響の評価は、科学委員会に河川工作物ワーキンググループを設置して行われた。遺産地域には、流域全体もしくは流域の大部分が含まれる河川が44河川あり、このうち14河川に123基の河川工作物が設置されており、これらの全てについて3年をかけて影響の評価が行われた。評価に際しては、河川環境の調査を实施し、サケ科魚類の遡上の阻害要因と産卵・生息環境を把握し、河川工作物に改良を加えた場合の防災面、環境面等への影響を踏まえて改良の必要性を検討している。評価の結果、改良の検討が必要とされた河川工作物の一部については、設置者である北海道森林管理局と北海道において改良工事が实施された。平成19年に行われたモニタリングによれば、イワウベツ川、ルシャ川でのサケ科魚類の遡上が以前より容易となったことが明らかとなっており、その中には、サケ科魚類の産卵が容易な河川の範囲が2km程度上流に広がった事例も見られる。 平成20年2月に知床を訪れた調査団からは、勧告事項に対する迅速な取り組みを評価された。特に取り組みを進める際のプロセスとして、科学的なアプローチのもとに、国、地域、関係団体など様々な立場の人々が連携して議論を重ね合意を形成してきたことが高く評価され、世界に発信すべきモデルケースとして、今後も取り組みを継続していくべきとされた。 平成20年7月にケベックシティ(カナダ)で開催された第32回世界遺産委員会ではこの調査報告書に基づき、9つの勧告が決議された。近年顕在化してきた世界遺産への脅威への適応方策として、気候変動の影響への順応的管理戦略など気候変動戦略の開発も求められた。

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