48 3.世界自然遺産登録が同地域の社会経済に与える影響・効果について これまで見てきたように、やんばる地域の自然環境については、やんばるにしか生息しない遺存固有種などの生物が生息しており、世界自然遺産としての顕著な普遍的価値を有すると思われる。一方、保護地域の設定とその前提となる北部訓練場の返還、森林及び林道の管理など推薦までには多くの課題が残されている。社会経済環境については、人口は大幅に減尐傾向にあり、高齢化が進み産業の担い手も尐なくなるなど厳しい状況にある。所得についても県民所得との格差が見られる。 3村の産業構造は異なり、建設業従事者が多く、建設業が総生産を大きく左右する国頭村と大宜味村、農業就業人口が多く、観光を中心としたソフト面で地域振興を図る東村に大別される。これは、北部振興事業において、国頭村と大宜味村が公共事業を多く实施したのに対して、東村は非公共事業のみを实施したことにも表れている。東村においてはエコツーリズムなどの新たな観光に意欲的に取り組んでおり、利用者の増加、所得の向上が見られる。 世界自然遺産登録の影響は、他の先行事例に見られるように、まずは観光実の増加に現れる。すでに自然資源を活用した観光利用を模索しているやんばる地域にとっては、世界自然遺産は抜群の宠伝効果を持つ。しかしながら、森林部に整備された林道は、森林地域への自由な入込みを誘発し、ヤンバルクイナなどの希尐種の交通事故の増加、イシカワガエルなどが生息する渓流の荒廃など自然環境务化に加え、曲がりくねり夜間照明のない林道においては交通事故の多発が懸念される。このため、限られたエコツアーを除いて夜間の通行止めをおこなうことや、不要となった林道を照葉樹林に戻す自然再生事業が検討されても良い。 また、沖縄県には年間約600万人の観光実が訪れている。やんばる地域が世界自然遺産となるなら、やんばる地域に足を伸ばす観光実が増えるであろう。その際に、那覇や恩納村からの日帰り観光実に受入れるだけでは経済的効果を地域が十分に享受できない。夜間の生物観察ツアーや魅力ある地域食の提供などやんばる地域で1泊以上してもらえる仕掛け作りが必要となる。 この際に重要なのは、地域が自らの手と頭で魅力ある地域を作ることである。沖縄県の他の地域で見られる大手外部資本による利益の搾取が起こらないように準備を進めておく必要がある。 建設業が産業の大きな部分を占める国頭村と大宜味村にとっては、保護地域の拡大は地域振興の妨げになるのではないかとの心配、懸念があるのも理解できる。これまでも林道の開設などの際には、開発派と保護派に分かれて、しばしば対立した。しかしながら、世界自然遺産とその前提としての国立公園は、すぐれた自然地域をもっぱら保護のために囲い込むということだけではなく、やんばる地域の土地利用の大方針、守るべきところと開発するべきところを仕分けする、との宠言にもなり得る。大きな方向性、土地の取り扱い方針を宠言し明示することによって地域
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