41 集落は、一つの水系を軸として海に面しており、尾根筋が隣の集落との境界となってきた。土地利用は、集落を中心に同心円状に耕地、薪炭利用区域、建築材利用地域、あまり手を入れない源流の奥地と合理的に使い分け、源流域を守ってきた空間概念が見られる。集落内には、家屋を台風や潮害から守るために維持されてきた、サンゴ石灰岩の石垣やフクギの防風林など、沖縄島中南部ではほとんど見られなくなった伝統的な集落景観が残っている。 5) やんばる地域の自然環境保全上の課題 1)で述べたように、奄美群島の世界自然遺産としての価値は、クライテリア(ix)(生態系)とクライテリア(ⅹ)(生物多様性)と考えられることから、この価値を説明する希尐種や固有種、特に遺存固有種を、生息環境を含めて将来的保全していくことが必要である。この観点から、自然環境保全の課題として①保護地域の設定、②外来種対策、③森林施業及び林道建設との調整、④地域における保全意識の向上、⑤持続可能な利用方策の確立が挙げられる。 ① 保護地域の設定 世界遺産に登録されるためには、顕著な普遍的価値が認められるとともに、その価値を将来にわたって確实に保全するための国の保護措置が取られていることが条件となる。具体的には、やんばる地域の場合、ノグチゲラ、ヤンバルクイナ、オキナワトゲネズミ、ケナガネズミ、イボイモリ、イシカワガエルなどの遺存固有種の生息地が、国立公園、自然環境保全地域、森林生態系保護地域などの保護地域に指定されていることが必要となる。 現在の沖縄海岸国定公園は、海岸部には設定されているが、遺存固有種の生息地である森林部にはほとんど設定されていない。特に、遺存固有種の生息環境になっていると考えられるオキナワシキミ-スダジイ群集などの常緑広葉樹自然林の保護が重要である。また、森の中を流れる渓流は、やんばる地域を特徴づける景観の一つであるとともに、その周辺環境は、固有かつ希尐な動植物の生息・生育地となっていることから特に重要である。 「やんばる地域の国立公園指定に関する基本的な考え方」によれば、国内では最大級の広がりを有している照葉樹林を为たる対象とし、ブロッコリー状の特徴的な樹冠、春の輝くような新緑の緑、イジュなどの「木の花」の開花など特徴的な景観に加え、ヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ヤンバルテナガコガネ、オキナワセッコク、クニガミトンボソウ等の地球上でやんばるにしか存在しない生物種が数多く生息・生育していることも照葉樹林の魅力として評価し、保全・活用すべきとしており、国立公園指定の实現に向けた調整が進められている。
元のページ ../index.html#49