平成21年度「自然共生型地域づくりの観点に立った世界自然遺産のあり方に関する検討業務」報告書
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72 に低下した。奄美の将来展望は、島それぞれの個性に磨きをかけ、観光にしろ産業にしろその島にしかない資源と魅力で勝負していくこと以外には拓けないであろう。その基礎となるのは、島、地域固有の自然であり文化だ。2つめの誤解は、奄美振興・公共事業と自然保護や文化財保護は必然的に対立する、というものである。地域振興の基礎、基本は自然と文化に依拠する。そしてそれがまたもっとも地域間競争に強いということでもあるのだ。 こう考えれば、この保護と開発の対立のかなりの部分がじつは幻想であることがわかる。局所的対立をどう回避するかは、まさに専門性であり技術である。例えば世界自然遺産とその前提としての国立公園は、すぐれた自然地域をもっぱら保護のために囲い込むということだけではなく、大島、徳之島の島全体の土地利用の大方針、守るべきところと開発するべきところを仕分けする、との宣言にもなり得る。大きな方向性、土地の取り扱い方針を宣言し明示することによって地域の合意が形成されれば、これまでの保護と開発対立の過半は解消する性格のものなのである。 世界遺産・国立公園への奄美での議論は、これまで70年以上に渡って作り上げられてきた国立公園の考え方を、奄美についてはまったく新しい価値、手法に基づいて行おうとする試みである。奄美の地域づくりを成功させつつ、こうした国立公園の議論を自然保護の新たな始まりとして敷衍していくことができれば、そのこと自体が全国の地方地域、また日本社会や途上国への最大のメッセージとなるはずである。 (2)遺産登録より予想される課題 これら各種分析を総合した上で、奄美における現況及び将来への課題を整理すると、以下のようになる。 ほぼすべての指標において長期低落傾向にあり、根本的転換の時期に来ているとの認識を持つこと 累積2兆円超の奄美振興事業がこれまで地域振興、インフラ整備に果たした役割は大きいが、今後は内容の変更も含めて考える必要があること 地域の自立には、なによりもアイデンティティ=個性化が大事であり、自然、文化歴史の再評価が重要となること そういう点では、これまで対立的に捉えられてきた自然保護(の区域設定)と開発事業は、発想を換えて共存のための知恵が必要となること 例えば保護区域設定の議論と併せて群島全体の土地利用の方針をこの際決め、合意形成を図っておくこと、などが考えられる (沖縄と本土の谷間で)ともすれば奄美のイメージは埋没しがちであり、いかに個性化を図るか、確立するかを最前提に考えること 奄美群島を一体として捉えて地域の個性を見出すことが重要である一方、島ごとの個性を重視して島別の方策も併せて考慮、実施する必要があること

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