平成21年度「自然共生型地域づくりの観点に立った世界自然遺産のあり方に関する検討業務」報告書
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70 ら丸7年間の米軍占領、本土に比べてあまりにも遅れた離島群ということを理由として導入されたものである。これまでの振興費累計は約2兆円。大島や徳之島を車で走ればわかるが、道路、港湾、農地など基本的インフラの整備は、この事業によって格段に進んだ。しかし奄美全体を見渡せば、いまだインフラ整備の進捗状況のバランスには問題があり、生活上すでに充分な整備がなされたとは言い難い。一方で問題なのは、これまでの奄美における公共事業は自然や伝統的生活への繊細で充分な配慮がなされてきたとは言えず、自然保護派等としばしば軋轢を起こしつつ進められてきたことだ。大島は86%が森林であり平地はきわめて少ないから、集落や都市的サービスのための用地確保には大きな制約があったことを割り引いて考えても、これら事業の実施は無神経に行われすぎたと言わざるを得ない。結果として反公共事業の風潮もあり、事業そのものの進捗に相当の影響を与えるところまできたというのが現状だ。奄美における公共事業と自然保護派の対立の内容を細かく見ると、上述したようにお互いの不信感が対立を増幅させ、いたずらに観念的対立の弊に陥っている傾向も否めない印象である。 3) 指定文化財 奄美における文化財指定については、1955年以前には国及び県指定の文化財はほぼ皆無である。唯一の例外は大正10年指定のルリカケスのみである。この事実が表していることは、少なくとも文化財指定という枠に関する限り、奄美に指定すべき文化財がなかったという行政の認識である。国、県併せて指定文化財はいま現在35件、うち13件はクロウサギなど生物系である。奄美の歴史、文化の蓄積を考えれば、過小すぎる。背景には地元意識があるとしても、文化財行政関係者の関心が奄美に関してはあまりに薄かったといわざるを得ないだろう。奄美の将来像を描く場合の客観的判断として、自然、文化・歴史は外せないものの双璧であるはずである。文化財への関心が島内外とも脆弱であるのは残念なことであるが、逆にこうしたことが奄美再考のポイントであると考えることもできよう。 奄美における文化財関連の新たな動きは、2008年から3カ年計画で始められた「文化財総合的把握モデル調査」である。歴史文化的資源のリストを整備し集落再生のモデル事業につなげていこうとするもので文化庁のモデル調査である。全国で20ヶ所、奄美での対象は奄美市、宇検村(大島)、伊仙町(徳之島)の3市町村であるが、この際群島全域の文化財リストをつくるべく作業が進められているところである。国立公園、世界自然遺産、この文化財調査の2つが同時期に行われていることの地域づくりにおける意味はきわめて大きいものがあると思われる。 3.4 遺産登録により予想される課題と対処方法 (1)奄美の状況 いま現在、奄美の最大の話題は、次の世界自然遺産になるかどうかということである。2003年環境省と林野庁が共同でつくった専門家委員会が選定した最終的な世界自然遺

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