平成21年度「自然共生型地域づくりの観点に立った世界自然遺産のあり方に関する検討業務」報告書
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68 (4)遺産候補地であることによる島民の意識変化 島民意識、中でも森や海への認識は屋久島と同様な部分と異なる部分があり、その差異に留意して考察した。例えば、森については奄美がより、日常性が強く、海については浅海沿岸部のみを認識しており、外海漁業は奄美に移住した沖縄糸満の漁師が行ってきた歴史がある。 森林あるいは林木の捉え方も、例えばリュウキュウマツに関して言えば、西郷松など例外を除きおおむね軽視する傾向がある。これは旺盛な生産力をもつ亜熱帯照葉樹林帯においては、多用途に使ってきた常緑広葉樹に比べリュウキュウマツは伐採後の二次林に過ぎないとの意識からとも考えられる。遺産登録への住民意識の基層には、まずこうした自然への歴史的感覚がある。 こうしたことを踏まえつつ、本調査におけるヒアリングや各種イベント等での住民意識を見れば、世界遺産への住民意識の現状は、 ①遺産効果への期待は強いが、規制の程度や具体的効果の内容が具体的にイメージできないことへの不安も共存する。とりわけ、遺産地域、国立公園地域、現国定公園地域の相互関係が充分には明示されず、また理解もされていない ②観光業界等では素朴に期待感が大きいが、理解は未だ表面的に止まっている ③その一方、遺産登録は目的ではなく長期的島づくりの一手段であるとの冷静な見方も育ちつつある 等であると整理できる。 (5)遺産登録にむけた自治体等の施策 奄美における自然保護、環境保全施策など関連する動きは、これまでのところ行政主導で行われてきたに過ぎない。環境省の国立公園指定のための委員会設立などに伴って、ようやくこの2年前から群島内でも議論が始まったところであり、世界遺産にむけた条例やルールづくりについては今後の課題である。 このような中で鹿児島県は、世界遺産登録を意識し2003年に奄美群島自然共生プランを策定、以降この計画に基づいて野生生物対策など順次事業を実施してきた。群島市町村においては、世界遺産対応というよりは個別自然の保護対応として、12市町村協議会による珊瑚礁保護、大和村・野生生物保護条例、龍郷町・自然観察の森整備利用事業、瀬戸内町・野生生物保護のための指定地域入山規則、などが散見される程度である。 条例などへの前段階としての普及啓発活動は、ここ2,3年ようやく各種の試みがなされ始めたところである。それらのうち主なものを列記すれば、①2007年、2009年、環境省主導で琉球弧フォーラムがそれぞれ沖縄、奄美で開催された②2008年、奄美振興事業協議会主催の奄美世界遺産講演会の開催③2009年、鹿児島大学鹿児島環境学・奄美公開セミナーの開催④2009年、環境省による世界遺産にむけた広報誌・奄美ニュースレターの群島全戸配布(5万戸)、などがある。

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