平成21年度「自然共生型地域づくりの観点に立った世界自然遺産のあり方に関する検討業務」報告書
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67 (2)自然ガイド、一次産品の地域ブランドなど、遺産登録によって大きく影響を受ける可能性のある産業の状況 遺産登録によって大きな影響を受けるものの第1は観光である。世界遺産の情報発信力は奄美のイメージを全国に広め、観光客増につながる可能性が高い。一方、奄美の観光の実態をみると、旧来型の観光宣伝にとどまっていることに加えて地場産品と観光関連消費と結びつけるという発想はこの地域においてはいまだ未成熟である。 世界遺産登録の経済効果は、①宿泊、飲食、土産物など直接的観光消費②遺産ブランドの付加価値による地場産品の売り上げ増、として現れる。一方、奄美の産業の状況は、サトウキビを代表とするようにおおむね素材生産型であること、大島紬を典型とするように長期低落傾向にあること(奄美図表50)、等が概観される。登録効果を地域経済に結びつけていくためには、現状を分析して問題点を克服し、観光インフラの整備に加えて、商品開発、流通、PR戦略等々について具体的対応を早急にとる必要がある。 地域の観光資源、生産物を見ると、なんらかの工夫を加えることによって、観光地形成や、地域ブランドとして可能性を持つ産物はかなり存在すると思われる。黒糖焼酎はすでに一部で人気が出始めているし(奄美図表52)、低農薬タンカンはインターネットによる販売実績が上がりつつある。徳之島産のジャガイモ、マンゴー、沖永良部の花卉、各地でつくられている自然塩など、素材はたくさんある。苦戦している大島紬についても、遺産登録のイメージアップ効果と連動してPR、流通などについて所要の改革を図れば可能性は十分あるだろう。遺産登録まで数年の時間はあるのだから、商品開発、パッケージデザイン、販売拠点や流通等々について、いまから関係者による研究会などを立ち上げ準備しておく必要がある。 (3)遺産候補地であることが地域イメージにもたらす効果 奄美の最大の問題点は、沖縄と本土(鹿児島)の間にイメージが埋没して奄美独自のアイデンティティが鮮明でないということにある。したがって世界遺産の登録及びそれに至る議論について相当の報道等がなされるだろうことは、奄美のイメージアップとその全国展開にとって決定的な意味を持つと考えられる。大島中央森林部におけるクロウサギ観察のナイトツアーなどは頻繁に行われ、すでにその萌芽が見られ始めている。 また、主として行政主導ではあるが、世界遺産を巡る各種講演会、シンポジウム、フォーラムなどはここ数年しばしば開催されてきた。地元の大学である鹿児島大学でも昨年9月に奄美公開セミナーを奄美市で開催するなど(参考資料5.6)、徐々にではあるが広がりを見せつつあるところである。 これらの動きを、対外的なイメージ戦略、観光効果として捉えるだけでなく、地域サイドの内発的個性の再確認、誇り、個性化につなげていくことで、効果はより一層高まり内実を獲得することが可能となろう。

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