平成21年度「自然共生型地域づくりの観点に立った世界自然遺産のあり方に関する検討業務」報告書
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62 だけである。 奄美の自然の特徴は、沖縄と同じく亜熱帯気候を基礎として成立したものだ。また地史的に大陸と切り離されたのがせいぜい100万年前だから、大陸の影響を受けつつ独自の進化をしてきたものも多い。アマミノクロウサギがその代表的なものだ。大陸から陸路を渡ってきて奄美に閉じ込められた。この世界でもっとも古いタイプのウサギは奄美で100万年単位の時間を奄美に適応して生き抜いてきた。(図表45)世界で奄美にしかいない。体長40~50センチ、耳は短く夜行性。森に棲んで新芽などを好んで食べる。大島に数千、徳之島に200~300頭程度が生息するのみである。奄美とりわけ大島、徳之島の自然の特徴は亜熱帯性の濃密な森林植生を中核に濃密で特異な生態系が形成されているということだろう。樹木はスダジイ、タブノキなど常緑広葉樹が主でマングローブ、ガジュマルなど熱帯的な樹種が場所によって混在する。熱帯と温帯の中間に位置すること、南北の移行帯であることが奄美の生態系の基礎となっている。 ハブはいわゆる高島、大島と徳之島に生息しその他の隆起珊瑚礁の島(低島という)にはいない。大島には特に多く13万とも20万匹ともいわれている。昭和50年代初めにハブ対策としてマングースを入れた。獰猛で敏捷なマングースならハブを食べるだろうとの考えからだが、ハブは食わずもっぱら農家のニワトリを狙った。近年島内全域に分布を拡げたマングースは、クロウサギなど希少種まで食べ始めているという。(図表46,47) 奄美大島の森林植生図を見ると、リュウキュウマツが全体の4割を占めていることがわかる。リュウキュウマツは伐採後にまず出てくる二次林の代表だから、パルプ用材用などかなり強度の伐採が進行した結果が島全体に及んでいるということだ。いわゆる原生林は27%程度、4割が二次林であるリュウキュウマツ林、その他の大部分は照葉樹林であるが過去に伐採があったシイやカシの萌芽林である。 奄美に関する文献、出版物、報告書の類は膨大にある。居住人口1人当たりの文献量は日本でもっとも多いのではないかとさえ思えるほどだ。手に入る限りのこれら出版物を読むと、分析はあるが提案はきわめて少ないことに気がつく。さらにかなりの分量が砂糖地獄、島津圧政、琉球支配、米軍占領など、要するに恨み節に満ち満ちているのである。16世紀までは琉球王朝の辺境としての支配を、17世紀初頭からは島津支配、明治以降は遠い南方の島として近代化の光が当たらなかった。戦後は米軍の占領が昭和28年まで続いてきた、等々。それらはすべて事実であったには違いないが、結果として陰としての奄美をのみ語って、奄美そのものが持つ独自性、個性を語ることにはなっていない。そしてそのことが奄美の将来にとって最大の隘路であるように思える。 (1)データ収集と整理 奄美群島の自然及び社会経済的データを収集整理した。その際、屋久島で整理された主要指標関連データについては特に詳細に把握した。 データ整理にあたっては、群島全体と5島別の整理一覧表を作成するなどしつつ行っ

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