平成21年度「自然共生型地域づくりの観点に立った世界自然遺産のあり方に関する検討業務」報告書
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60 図表 45:哲学者 上山春平 1,000字コメント 私は、最初の懇談会の席で、屋久島と私の住んでいる京都が、共通な難問を抱えている点について、次のように指摘した。 ①屋久島と京都は、どちらも、かけがえなく貴重な遺産をもっている。 ②それぞれの自然と文化の抜群の遺産を、大事に保存してほしい、という国民的もしくはそれ以上の規模の人びとの要求がある。 ③こうした保存の要求と住民の生活の必要との矛盾を、どのように解決すればよいか、という問題が、屋久島と京都の住民には、共通に課せられている。 屋久島の住民の方々は、私ども京都の住民と同じく、それぞれ、自らのうちに、保存と生活の矛盾を感じながら、この矛盾の解決がいかに難しいかを、痛感されているにちがいない。 しかし、住民の中には、保存の側を強調する人びとと共に、生活の側を強調する人びとが存在することも事実である。このばあい、保存の側が、住民外の広汎な世論の支持を期待しているのに対して、生活の側は、世論の非難、言論の心理的抑圧を受けやすい。 私は、私どもの懇談会が、保存の側を一方的に強化し、生活の側に対する抑圧を強める役割をはたす結果にならぬよう終始念願してきたのであるが、この点にかんして、事務局の方々が、私の念願を上回る配慮を示されたことを、たいへん有り難く思った。 屋久島環境文化村構想は、屋久島の住民の自発的な意欲の一環となるのでなければ、実現の可能性はありえない。そのためには、屋久島における自然の保存と住民の生活との矛盾の解決に対して、保存を強調する側が、強力な支援を行う用意が必要であろう。 これまで、懇談会事務局や屋久島環境文化研究会によって、さまざまな注目すべき提案が行われてきているが、私は、とくに次の三点の優先的実現を期待したい。 ①屋久島環境文化村構想の長期にわたる推進の拠点となる組織と施設を早急に作ること。 ②環境文化村の名にふさわしい、高度な汚水・ゴミ処理施設を、住民の創意と熱意をともなう自発的協力のもとに、計画的に、早急に充実すること ③保存と生活の矛盾を解決するための不可欠な手がかりとして、屋久島環境文化研究会の提案する「ゾーニング」を、法制面をふくめて早急に具体化すること。 鹿児島県環境文化懇談会報告書1992年

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